ボイシー日記

手がふさがっていては、新しいものは掴めない。

池澤夏樹「静かな大地」。

2012-09-02 16:01:01 | 
先日NHKのラジオドラマで池澤夏樹の「静かな大地」をやっていて
これは面白そうだと思い図書館から借りてきて読んだ。
明治維新のあと、淡路島から北海道へ向かった人たちの開拓の物語でありながら、
日本国へ編入されていったアイヌの歴史や文化も描いている。

明治維新後、淡路島ではお家騒動が起こり、
倒幕を掲げた稲田家は北海道へ移住開拓を命じられた。
稲田家臣は船で静内町へ着き、林を切り開き開拓する。
主人公である室形一家の三郎、志郎の兄弟は
静内で知り合ったアイヌと協力して牧場や畑をつくっていく。
途中、家財を保管していた倉庫が火事にあったり
バッタが襲来したりして大きな被害にあったりするが、
一歩づつ生活基盤を整えていく。

その後、兄の三郎は、家業を大きくしようと
アメリカ流の農牧を学ぶために札幌官園へ行く。
そこで新しい農業知識や馬・牛の飼育方法を学ぶ。
馬鈴薯など北海道に適した農作物の生産方法を身につけ、
やがて農作物の収穫量を増やし、軍馬にふさわしい立派な馬を育てる。

ところで、稲田家臣たちが行く前は北海道には松前藩がいた。
それ以前は、すべてアイヌの土地、アイヌモシリだった。
アイヌモシリとは、アイヌの静かな土地、という意味だ。
静かな大地で暮らしていたアイヌの生活観、風習、文化が
わかったこともこの本を読んで大きな収穫だった。

アイヌは、たとえば鮭や鱒を穫るときにも欲張らない。
鮭も鱒もアイヌだけ、人間だけのものではない。
山に住む狐や熊やふくろう、みんなが待っている。
鮭の神様、鱒の神様がちゃんと数を数えて送ってくれる。
多い年は多く、少ない年は少なく。だから欲張ってはいけない。
そんな自然を敬う気持ちをもっている。

山に獣を追い、野草を摘み、川に魚を求めるアイヌの生き方は、
欲を抑えさせ、人を慎ましくする。いくら欲を張っても
動物がこなければしかたない。祈って待つしかない。
だから大きな山の力によって
生かしめられる己を知って人は謙虚になる。
人も自然の一部であるという
こうしたアイヌの考え方、生き方は、いいなぁ。

あと札幌で学ぶ三郎が、札幌農学校でクラーク博士の
演説を聞いたということで演説の内容にもふれている。
「ボーイズビーアンビシャス、少年よ大志を抱け」しか知らなかったが
クラーク博士は、開拓は崇高な事業であるということを語っている。
「神は自然を自然のままに造りなして、人間に与える。
それを自分の役に立つように作り替えるのが人間の義務であり
それによって住む土地を増やし、穀物を増やせば応じて人間の数も増える。
それが神の御心にかなうことである。
大地は諸君の目の前にあり、大地は種を播かれるのを待っている。
そこに種を播くのは神が諸君に与えた至高の任務である。」と。

あぁ、北海道、また行きたくなった。
オホーツクを見たくなった。
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