ボイシー日記

手がふさがっていては、新しいものは掴めない。

島崎藤村の自伝。

2012-04-03 15:43:51 | 
島崎藤村の「桜の実が熟する時」「春」「新生」を読みました。
3作品とも藤村の自伝的小説で、「家」と合わせて4冊読むと、
藤村のだいたいのことがわかります。

「桜の実が熟する時」から「春」は、10歳で兄と共に上京した頃のことや、
明治学院に入り、馬場孤蝶、戸川秋骨、北村透谷など
「文学界」のメンバーたちとのさまざまな出来事が記されている。
また、許嫁のいる女生徒への淡い恋と
失恋による関西への放浪の旅なども書かれている。

島崎藤村というと、木曽路の山中で小説を書いているイメージだが、
実際は東京で転々と居を変えて小説を書いている。
「簡素」を旨とし、いいものだけを愛して
魯山人の星ヶ岡茶寮などにも出入りしている。

「新生」は、次兄の二女であり姪である島崎こま子との恋愛、
叔父と姪という許されない恋愛を告白した問題小説。
当時、妻を亡くした藤村の家に手伝いに来ていた姪、こま子の妊娠が発覚。
密かに出産して、子供はすぐに養子にだされる。
次兄は藤村に「このことは早く忘れろ」と言うが
その事件を理由に、度々藤村に金の無心をしていたらしい。

藤村は、懺悔の気持ちと、次兄からの金銭的束縛から逃れるため
小説「新生」を書くことによって地獄の日々から解放される。
あえて小説というカタチにして告白し、こうした泥沼から楽になった。
この「こま子問題」で、藤村は悩んだ末に
新しく出直そうとフランスへ逃避行する。
3年後に帰国するが、こま子との関係が再燃してしまい、
ついに藤村は次兄から絶縁され、こま子は台湾にいた長兄のもとへ連れられていく。

この「新生」のなかでは、二人の間で交わされた短歌があり
こま子からたくさんの短歌が藤村に宛てられていて、
これらの短歌は、藤村が自ら創作したものだろうと思っていたが
評伝などを読んでいたら、その短歌はすべて
こま子が実際に書いたものだったとある。

また、こま子自身も後にあの小説には
なんら違ったところはないと言っている。
どちらかというと、こま子のほうが文学少女で、
当時かっこよかった藤村にぞっこんだったのではないかと思える。

芥川龍之介は「新生」を偽善者の小説だと辛辣な批判をしたが
藤村の偽らざる正直な告白で、これを書くことで救済されたのだと思う。
犯した罪を一生隠して生きていくこと本当に辛い。
自らの恥をさらけ出し、身を削りながらも、気分は晴朗としたのではないかと思う。

ところで、藤村の小説も凄いが、家庭環境もなんともすさまじい。
国学者である父は、明治時代が自分の理想と
かけはなれたものとなっていくのを見て、座敷牢のなかで狂死する。
また異母妹と密な関係があったとされる。
母は、隣の家の主人との間にできた不義の子供、三兄を生む。
姉は木曽福島の高瀬家へ嫁ぐも、父と同じ年齢の頃に狂気に侵される。
長兄はある事件に連座して収監される。
次兄は事業に失敗して金銭的に苦悩にたたされ、藤村にせびる。
そして藤村も運命のように、許されない姪と恋に落ちた。

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