100億円が下らないだろうと言われる雪舟の「山水図」の他に、この美術館にはもう一つの国宝があります。その絵をご覧ください。
此の絵がそれです。中国元時代の画家銭舜挙(伝)の描いた「宮女図」です。男装の官女が触れ合わせた右手の親指と左手の小指の爪先を見つめて物思いに耽っている図です。
若い女の恋人か何にかの思いを、胸いっぱいに秘めて、「愛している。あなたに、今すぐ逢いたい」と云う思いを、自分の小指と親指の中に凝縮させて、それをじっと見つめていると言う、誠に艶麗な姿を漂わせている絵なのです。
こんな絵を孫三郎は、いつ、どこで手に入れたのかわ知れませんが、経済人であると同時に人を愛する心を持つ教養人でもあったのだと思いました。金に糸目はつけずに、人知れず購入したのではないでしょうか。
ちょっと、その指先の図を拡大してみます。
もう少し大きくすると。
何とかわいらしい真剣な眼差しだと思われませんか。それに、今にも恋人の名前でもそっとつぶやくのではないかと思われるような愛らしい口元。
小指と親指のあるかなしかのごくわずかな隙間と目と唇、この3つの間が、宮女の思いをそれとなく画面の中にありったけに広がらせているようでもあります。絵の持つ魅力を画面いっぱいに描き出しているようです。
これほど余白に作者の感情を描き出している絵は他に類を見ないのではないかと思うのですが。ご批判いただけれと思います。
見る機会はありますか。