私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

中村不折の絵葉書   豪渓⑤

2009-08-09 08:46:48 | Weblog
 不折が豪渓を訪れて最初に描いたのは豪渓の入り口付近(市場)から見た岩山の頂きにある金毘羅社でした。

   

 「市場村の出はずれに金毘羅社を祀れる岩山がある。九十度以上の傾の其巓(いただき)には、松が生えて居る。横になって居るのや逆になって居るのも見えて、水は清く、砂が白い」

 と、その旅行記に書いています。

 現在、このお社は見えません。「横になったり逆さになったり」と、不折の書いている松も、松喰い虫の影響で、ほとんど姿をとどめていません。わずかに枯れ松が哀れな姿を天空に向けて悲しげに残しているだけです。
 そこを流れる水も、昔ような「清く」とまではいかないのですが、それでも、それなりには、今でも、十分に澄んで流れてはいます。しかし、不折が書いた「清く」とは、随分と、かけ離れた流れになっているように感じられるのです。本当に清冽な清らかな水の流れではありません。それと何らかの関係があるのかもしれませんが、砂の白さも昔ほどは目立ちません。なにか薄汚れた白で、灰色に近いような感じがします。時々、岸辺に流れ着いたペットボトルの空などと一緒に見ると興ざめの感がより一層強く感じられ、「本当に昔はきれいだったなー」と、七十歳の深いため息のようなものが胸にこみ上げてきます。それが哀愁と言うものでしょうか。

 それぞれの年齢で見る絵葉書の味わいも、又、随分と変わってくるものだと、懐かしみながら久しぶりに取りだして眺めています。古いアルバムと同じで、こんな絵ハガキの見方もできるものです。
 これも私の大切な宝物です。

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