私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 4

2008-04-02 10:37:39 | Weblog
 翌朝の6つ半頃平蔵は立見屋を出ます。
 「今日は備中玉島辺りまで行きます。2,3日はあちらで用が待っていますので、こちらに戻るのは明後日あたりになると思います。もし、大阪から私宛の飛脚が届きましたら、そのままとっといてえよー」
 と、わらじの紐を結びながら平蔵は、見送りに出た何時もの係りのお日奈さんに備中言葉を交えながら言うと、足早に山陽道を西に向かって出で発ちます。
 朝霞が吉備のお山に立ちこめて、千歳の松の深き色も桜色したのどかなる春の色もすべてを包み込み、遅い宮内の春景を薄ぼんやりとした白色の中に仕舞い込んでしまっています。その霞の中からまだき朝のおぼろげなる光とともに、雀の声でしょうかちゅちゅちゅうちちをせわしげに聞こえて来ます。「お気を付けられて、お早いお帰りを」とかなんか言っているお日奈さんの声すらもこの朝霞は霞ませているようです。
 昨夜の喧騒がうそのようです。一匹の犬が、足早に霞む町影の中に立つ石の鳥居の方へ駆け抜けていきます。霞と雀の他は、町はまだ完全に眠っています。
 


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