ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

「1491」と北西航路お知らせ

2011年10月05日 12時36分51秒 | 書籍
1491―先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
チャールズ・C・マン
日本放送出版協会


チャールズ・C・マン『1491-先コロンブス期をめぐる新発見』を読む。1492年にコロンブスがアメリカに到達するまでの、北米と南米のインディオの文化を、最新の考古学的知見から明らかにしたもの。

コロンブスがやってくる前のインディオといえば、インカやアステカといった特殊な文明をのぞき、原始の森や太古から伝わる自然の中で、
狩猟採集をおこないながら静かに暮らしていた人々。一般的に私たちはそう考ているだろう。しかし、この本はそうした従来のインディオ観をことごとくくつがえす。インカやアステカだけでなく、北米大陸やアマゾンですら、当時はヨーロッパに劣らないほどの人口を抱えた文化が栄えていたというのである。その文化を一瞬で破壊に追いやったのは、残虐なスペインのコンキスタドールではなく、むしろ、ヨーロッパ人が持ち込んだ伝染病だった。

本文が600ページほどの浩瀚の書だが、文体は独特のユーモアに満ちていて、読んでいて飽きがこない。内容も知らないことが次から次へ提示されスリリングだ。だが、この著者の一番素晴らしいところは、徹底した取材に基づいた独特の視点で全体を貫いていることだろう。それは、当時のインディオは自然に翻弄されながら生活していた従属的な存在だったわけではなく、自然に積極的に働きかけ、むしろ自然を管理した自立した存在だったという視点である。その証拠として著者は、北米の大草原はインディオが野焼きによって作りあげた人為的な自然であること、あるいはアマゾンの熱帯雨林も原初の自然なんかでは実はなく、インディオが食料を確保しやすいように手を加えた果樹園のようなものであるという学説など例にとり、説得力のある論を展開するのだ。そして読者は常識をひっくり返され、ぶったまげるという仕組みになっている。

とても面白かった。暇な人にはおすすめである。

   *   *

お知らせ。ナショジオのウェブサイトに、私の短期集中連載「北西航路」の三回目がアップされました。ご覧になってください。

http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110927/285308/index.shtml



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