ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

『洞窟ばか』

2017年03月14日 06時33分14秒 | 書籍
洞窟ばか
クリエーター情報なし
扶桑社


吉田勝次『洞窟ばか』を読む。

著者の吉田さんとは実は面識がある。昔、富山で新聞記者をしていたとき黒部に関する特集をすることになり、なんのつながりかは忘れたが、吉田さんの洞窟探検チームであるJETが黒部で新洞探査をすると聞いた。それで吉田さんに連絡をとり、その探検の同行取材をしたのだ。そのときのことで印象にのこっているのは洞窟のことより、吉田勝次の強烈なキャラクター。もういいオッサンだったが天真爛漫、自由奔放、面白くて魅力的な野生児、というか野人、というか言葉をしゃべる類人猿みたいだった。たった一泊(だったかな?)の探検だったが、その後も吉田さん元気かな~と思い出すことがしばしばあった。

洞窟で活躍する姿より、夜中に黒部峡谷鉄道の軌道を勝手に移動して、どこかの温泉に勝手に忍び込んで、女性隊員の前にもかかわらずお湯のなかで陰部丸出しでぐるぐる回転する彼の姿がまだ眼に焼き付いている。最近よくテレビに出ているらしいが、わたしはあまりテレビを見ないので、その活躍ぶりは本書を読むまでじつは知らなかった。あのときよりパワーアップしてバリバリ活動しているらしいじゃないか!

ケイビングつまり洞窟探検の世界の人は、フィールドの暗さがそうさせるのか、どこか根暗な人が多い気がしていたが、この人はそういう雰囲気とは皆無。完全に陽性。本も吉田さんらしい文体で一気に面白く読める。雰囲気としては宮城君の『外道クライマー』に近い。『外道クライマー』が沢登りの世界を一般の人に読める文章で紹介したのと同じで、この本を読めばケイビングの世界の面白さが誰にでもわかる。洞窟探検のどこに魅せられ、一生続けるためにどんな生き方をしてきたか。吉田さんの人生そのものが洞窟探検に捧げられており、彼の半生記を読むことがすなわちケイビングを知ることになっていく、という他の誰にもまねできない稀有な奇書である。

次は個々の洞窟探検の詳細について書いた本を期待したい。
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