ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

荻上チキ・session22 長谷部教授出演会

2015年06月10日 13時16分23秒 | お知らせ
この前の記事で、報道機関は憲法学者全員にインタビューでもすべきだと少々いきり立って書いてしまったが、そのあと、TBSラジオの「荻上チキ・session22」(6月9日放送)を聞いていると、報道ステーションが100人ほど(200人だったかな)を対象に今回の法案が合憲と思うか違憲と思うかアンケート調査をしているという話が出てきて、まっとうな取材をするマスコミもあるとちょっと安心した。ちなみに先日、50人分の結果が中間報告されて、合憲だと考えている憲法学者はそのうち一人だったとか。

なお、session22の同日の放送には、憲法審査会で話題を集めた早稲田大学の長谷部恭男教授と首都大学東京の木村草太准教授が出演し、法案およびこの法案を合憲と強弁してやまない政府自民党の性質的問題点を非常に分かりやすく、明確に指摘している。私なりに簡潔にまとめると、

・現憲法で個別的自衛権しか認められていない以上、法論理的に従来認められていた個別自衛権の概念を逸脱する集団的自衛権は、どう逆立ちしても違憲である

・日本に憲法学者は400人程度いると思われるが、今回の法案を合憲と考えているのは10人程度だろう。菅官房長官や、同番組に出演した平沢勝栄自民党議員は合憲とする憲法学者もたくさんいると主張していたが、たくさんという言葉の概念で400人中10人という人数をとらえているなら、かなり奇特な日本語感覚の持ち主である。

・(性懲りもなく)首相安倍晋三は、今回の憲法審査会の結果をうけて、例の砂川裁判の判決を持ち出して合憲だと強弁していたが、砂川事件の裁判は日本の個別自衛権と米国の集団的自衛権の組み合わせからなる旧日米安保条約について争われており、そもそも日本の集団的自衛権は争点になっていない。よってこの裁判の判決を持ち出して日本の集団的自衛権は認められていると主張することは、おかしい。しかも砂川裁判の判決文の末尾には、今回の裁判では個別自衛権についてはやむを得ず論じた旨の断り書きがあり、そのような個別自衛権でさえ論じることが躊躇われた裁判で集団的自衛権についての価値判断を下しているわけがない。そのことから察するに、集団的自衛権の根拠として砂川裁判を持ち出す人たちが、まともに判決文も読んでいないことは明らかである。自分たちの主張の正当性を主張するのに砂川裁判を持ち出すなら、その判決文ぐらい詳細に読むべきであろう。

・高村正彦自民党副総裁は今回の騒動について「学者は憲法九条の字面に拘泥されすぎている」との発言をしたが、憲法が国のあり方を規定する以上、拘泥するのは当たり前である。この発言は要するに、自分たちに必要な政策を遂行するためには憲法などにはこだわる必要はないと言っているに等しく、政治家や公務員は憲法に服さなければならないとする義務規定に違反する。このような暴論を吐く人物を副総裁に抱いている自民党の任命責任は問われなければならないし、少なくとも、もう少しまともな発言のできる人物を選ぶべきではないか。

とまあ、専門的な法律用語の使い方に間違いはあるかもしれないが、内容的にはほぼこのようなことが論じられていた。要するに、われわれが選挙で選んだ安倍晋三を首班とする政府自民党は、このような最低限のルールも守れない社会人として恥ずかしい人たち、ほとんどヤクザ者、ならず者と呼んでもいい集団であることを憲法学的観点から痛快に浮き彫りにしており、ぜひポッドキャストで聞いてください。

http://www.tbsradio.jp/ss954/2015/06/20150609-1.html

憲法学の権威がことごとく違憲としているものを合憲だと言われたことで、憲法学者の多く、ひいては学問に一身をささげてきた学者と呼ばれる人たちのなかには政府・自民党から愚弄されたと感じた人も多いのではないだろうか。
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