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『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』『魔獣戦記ネオ・ヴァルガー』

2007年01月25日 18時09分22秒 | 本と雑誌
最近ライトノベルをいろいろとチェックしているうちに、急に読み返したくなり、本の山の中から発掘に成功した作品。ルナ・ヴァルガーは1988年から1993年にかけて全12巻、続編のネオ・ヴァルガーは1998年までに全8巻角川文庫から刊行された。
1988年同時期に同じ角川から『ロードス島戦記』も刊行され、まさにライトノベルの新たな潮流が生み出された頃の作品だ。ただ、この作品は正統派ファンタジーでありながら、軽いノリと、更にかなり意図的なエロシーンが挿入されていたことで、真っ当な評価がほとんどなされていないと思われる。

リアルタイムで読んでいたが、続編が出たり、OVAなどの展開はあったものの、あくまでもライトで読み捨てるのが当たり前といった感じの取り扱われ方だった。
作者の秋津透はこれがデビュー作。非常に独特なルビが特徴的で、例えば、「伝説の大魔道士」にそれに当たるキャラ名「グレートザシャム」や、「黒竜帝」に「エボニードラゴン」と振っているのは初歩の部類で、「先端恐怖症」に「びょーき」、「最大の脅威」に「いちばんとんでもねーやつ」、「誠心誠意」に「りっぱに」など様々な場面でこうしたルビが振ってある。全体に軽くテンポの良い文章なので、さらっと読み流す中のいいアクセントに感じられる。
設定は意外としっかりしており、その全貌が明らかになるのは続編の方でだが、特にルナ・ヴァルガーにおいて非常に有効に活かされている印象だ。

そして、この作品で一番優れている点はキャラクターと言える。ライトノベルの定義は微妙だが、その一つにキャラクター重視というものが挙げられる。その点ではまさにこの作品はライトノベルと呼べるだろう。そして、ルナ・ヴァルガーが他の作品と大きく違うのは、バカキャラの豊富さ多様さ、そしてそれを使う巧みさだ。
バカキャラとは、ストーリーの進行に関わらない、或いは時にそれを妨害するようなキャラクターで、常識外れの行動で周囲、特に主人公に迷惑を掛けまくる存在だ。笑いを生み出すためには有効なキャラだが、暴走しやすく、ストーリーの足止めになりやすい。読み手が楽しめるうちはいいが、邪魔に感じるようになってしまうこともある。江口寿志や火浦功の作品が最も代表的かもしれない。
そのバカキャラにもいろんな種類があるが、このルナ・ヴァルガーでは様々なタイプのバカキャラが登場しまくっている。やたら延々長話を繰り返すプリンセス・ゼナや、お気楽能天気、というか迷惑千万な魔道士たち。鳥頭の皇帝にとにかく五月蝿い蝙蝠猫と多士済々、よくもまあこれだけ集めたものだ。しかし、それ以上に感心するのが、これだけバカキャラを集めながら物語をしっかりと進める力があるということだ。
戦闘は多いが、対立の軸が常に変化し、敵が味方に味方が敵になることもある。中心となるしっかりした数名のキャラ(バカキャラに迷惑を掛けられる面々)もきちんとキャラが立っているし、特にバカキャラからメインキャラに出世した無謀戦士バト・ロビスの造型はなかなか面白い。
帝国軍の一員でありながら、ヴァルガー(巨竜)と出会い、それを倒すために一人追い続ける。どう見ても人の力では敵わないヴァルガーに対し、無茶無謀に挑む戦士。最初は主人公を追い回す迷惑な存在だったが、やがて主人公と共闘して他のヴァルガーと戦うことになる。どんどん人間離れした存在に描かれていくが(最初からかなり人間離れしていくが)、無謀戦士として名をはせる彼に、作者はシビアな評価も与えている。人類の危機に挑む主人公たちと共に行く彼に、この危機に際していまだ帝国や彼の一族の立場にこだわることへの痛烈な言葉を主人公の恋人が浴びせている。また、大団円を迎えたとき、彼の元上司の将軍が、無謀戦士の僚友との比較で、一戦士としてはともかく軍隊内の規律や指揮に従わなかった彼への苦言が描かれている(無謀戦士に直接語られた言葉ではないが)。
暴走キャラとして大活躍し、ある意味無敵の存在として描いてきたキャラを作者は一方で厳しく批判する。そうしたバランス感覚が、この作品のキャラクターたちをいきいきとしたものにしている。

そして、主人公ルナとその恋人ミル・ユードには厳しい試練を課す。この軽い作品には不釣合いなほどのテーマが厳然と存在し、見事に描き切っている。
ヴァルガーの力は人の手には律し得ないほどの巨大な力。そして、その力を使うことは、他のヴァルガーの封印を解き、人類に滅亡をもたらしかねない。それでも、望むと望まないに関わらず、その力を使わねばならない試練が襲い掛かる。苦悩するミル・ユードに伝説の大魔道士が語る言葉、ようは自分の信じる道を進めということだが、そこに集約された内容を全巻を通じて描いたことで説得力を得る。
テーマの内容は別として、そのテーマに全編貫かれ、細部まで血肉が通った非常によくできた作品となった。設定などでのオリジナリティの弱さや戦闘場面の表現力の低さなど気になる点は多々あるものの、非常に面白い作品だ。

一方、その続編ネオ・ヴァルガーは、ルナ・ヴァルガーの主要キャラたちの子供たちが活躍する話ではあるのだが、正直失敗作と言える。
前作のルナにあたるような明確な主人公がいないため、出来事が羅列しただけの内容になっている。キャラも数はいるがほとんど出番はなく、大半が意味のないキャラに成り下がっている。バカキャラも少なく後半は出番がなくなってしまう。前作があくまで人の話であったのに、続編ではヴァルガーレベルの話となってしまい、そのスケールアップがかえってマイナスとなった。
前作から登場し、なかなかユニークなマッド・サイエンティストであったグレゴール・クライシスは最後は丸くなってしまって非常に残念だ。死霊術師(ネクロマンサー)の彼は、自らの研究のために人の魂を奪い、禁忌である魔術士の命さえも奪う。それにより力を封じられ死刑にされるが、研究の成果によって見事に蘇った。まあ見境なしの狂った研究者はいろんな作品に登場する存在だが、彼ほど自らの研究という目的に殉じた存在は少ないだろう。俗物的な欲望はほとんどなく、他人に気を使うことは決してない。それが強大な力を持っているのだから、まさに歩く災い。ルナ・ヴァルガーではそれでもパワーバランス的にはヴァルガーに劣る存在だったが、ネオ・ヴァルガーでは完全に人の力を超えるものと成り果てた。まあ主人公サイドの味方になってしまったので脅威でもなくなり、最後は便利な味方だった。

ルナ・ヴァルガーがいい出来だっただけに、続編の不出来は残念だが、それで前作の評価を下げるものではないだろう。万人受けするものでもないが、こういった軽さは小説ではむしろ描くのが難しく、これだけきちんと書き切ったものは滅多にない。今回およそ20年振りくらいに読み返したわけだが、当時以上に興味深く読むことが出来た。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ルナ・ヴァルガーいいですよね!自分はザシャムが山... (faketurn)
2009-10-15 10:45:42
こんなに面白いのにあまり知名度がないのは不思議ですね。やっぱりエッチな部分を敬遠する人が多いからでしょうか。

自分も発掘して読み返してみま~す。
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コメントありがとうございます。 (奇天)
2009-10-15 19:45:30
ライトノベルがまだ試行錯誤していた時期の作品で、文体やお色気など今のラノベとは毛色が違うせいかもしれないですね、知名度が低いのは。
もちろん古いというのが最大の理由でしょうが。再版でもすれば……。

読み返したら、感想お待ちしていますw
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