酔眼独語 

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なぜ中国はダライ・ラマに怯えるのか

2008-04-11 05:25:24 | Weblog
 チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が訪米のトランジットで日本に降り立ち、成田のホテルで会見した。

 会見の内容は従来の主張を繰り返しただけで、目新しさはない。「チベットの独立を目指しているわけではない」「北京五輪にも反対はしない。聖火リレーの妨害はよくない」。言葉の端はしには中国への配慮もにじんだ。

 自治区のチベット人やラマ教の僧侶を弾圧し、亡命指導者である14世を「分裂主義の反動」と決め付ける中国政府は、一体、何に怯えているのか。

 13億人の人口を抱える中国は、多民族国家である。しかも、その少数民族は移民などではなく土着の人々だ。多くは辺境に住んでおり、経済的には極めて劣悪な階層である。

 発展する沿海部と好対照をなし、現代中国の矛盾を象徴する地域と言っていい。

 中国の最大の悩みは少数民族問題ではなく、貧富の格差がますます拡大し、大衆にもその現実が明らかになってきたことだろう。少数民族問題と格差問題が密接にリンクしているところに、この問題の根深さがある。

 億ションに暮らし、海外へショッピングに出かける富裕層の存在はあまねく中国人民の知るところとなった。「それに引き換え、わが身は」と慨嘆し、憤慨する人々が登場するのは、むしろ自然であろう。

 大衆の怒りに中国指導部が震え上がったのが、今年の「春節前豪雪」である。中南部では50年ぶりという寒波と降雪で、上海などから帰省しようとしていた多くの人が足止めを食らった。鉄道ダイヤが大混乱したためだ。

 ここで中国指導部は温家宝首相自らが駅頭に立ち、ハンドマイクで「まもなくダイヤを復活させる。春節には必ず帰れるようにいたします」と叫び回ったのだ。

 日本ならJRの助役が担当する役回りだ。しかし、中国では最高指導部が直接呼びかける必要性があった。放置すれば大衆の怒りが暴動に向かいかねないと察知したのだろう。このあたりの感覚は鋭い。福田康夫首相などとは大違いだ。

 
(ただ、この騒動について日本のメディアはなぜか大きくは取り上げなかった。やや詳しかったのは産経ぐらいだ。朝日や共同はベタ扱いに近い。この感覚は理解できない)

 
 ひとたび人民の怒りに火がつけば、収拾が付かない大混乱になる。中国指導部はその恐怖を肌で感じているのだ。胡錦濤主席が、革命時の幹部の子孫からなる太子党と一線を画す理由の一つは「生来の格差」と対決する姿勢を示すことにあると観たが…。

 中国がいま学ぶべきは、米軍による戦後の日本統治ではないか。天皇を象徴に祭り上げて温存し、日本国民の懐柔を策した統治法にである。日本政府がなんと言おうと、今や日本は米国の51番目の州もいうべき立場だ。多くの国民にその自覚がないのは、曲がりなりにも「自治」が行き届いているためだ。

 福田氏は温氏との会談で、そのあたりのことをじっくり語り合ってほしい。もっとも、小沢一郎氏との党首討論で見せた、あの余裕のなさでは大きな期待はできそうもない。
コメント (1)
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