東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

行合坂

2011年01月25日 | 坂道

行合坂下(南側) 行合坂上(南側) 落合坂上の突き当たりが谷底で、ここからは南にも北にも上り坂になっていて、南北いずれの坂上にも行合坂の標柱が立っている。

落合坂上を左折し、歩道を上るが、勾配は中程度で、距離は短く、まもなく南側の坂上の標柱が見えてくる。坂上東側は麻布小学校であり、ここを左に見て直進すると、飯倉片町の交差点である。

左側の写真は行合坂下から南側を撮り、右側の写真は南側の坂上から撮ったものである。坂上西側の広い道路は、外苑東通りを飯倉片町の交差点で横切り永坂を下る通りで、その上に首都高速が通っている。

尾張屋板江戸切絵図を見ると、我善坊谷を東西に通り抜けた道(両わきが御手先組)が西側(落合坂坂上)で四差路に至る。ここから左折する道、右折する道があり、これらが現在の南北の行合坂と思われるが、坂マークや坂名はない。直進する道は、現在、上記の広い道路ができたため存在しないが、二回ほど曲がってから、長垂坂の坂上を通る道に出たようである。昭和31年の東京23区地図にはちゃんとこの道があり、現代地図を見ると、この道の続きが広い道路の向こう(西側)に現存しているようである(今回は行けなかったが)。

近江屋板では、御手先組の西側の道に、坂マーク(△)が2つあり、ちょうど坂の向きが現在の南側の坂と北側の坂に対応しているので、この坂は江戸から続く坂のようである。また、坂下から西側に向かう道(尾張屋板で直進する道)にも、坂マーク(△)があるので、この坂下から西への道は上り坂であったと思われる。

行合坂上(南側)から坂下 行合坂上(南側)標柱 左側の写真は坂上から坂下を撮ったもので、坂下が落合坂の坂上で、この坂下から西に上る上記の坂に坂名はなかったのであろうか。

右側の写真のように、標柱には次の説明がある。

「ゆきあいざか 双方から行合う道の坂であるため行合坂と呼んだと推定されるが、市兵衛町と飯倉町の間であるためか、さだかでない。」

標柱の説明では坂名の由来がいま一つ不明確である。双方からとは、市兵衛町(北側にある)と飯倉町(南側にある)の双方からという意味であろうか。落合坂と関連して考える方がよいのかもしれないので、落合坂の標柱の説明を再掲する。「おちあいざか 我善坊谷に下る坂で、赤坂方面から往来する人が、行きあう位置にあるので、落合坂と呼んだ。位置に別の説もある。」

赤坂方面から往来する人とは、『御府内備考』の落合坂の説明にある今井村赤坂新町などより往還の者、と対応しているが、行きあう位置とは、行合坂の坂下のことであろうか。また、行合坂の標柱の説明にある双方(市兵衛町と飯倉町)との関係がよくわからない。

石川は、「落合坂に対して行合坂とよぶのか、由来は不詳であるが、似たような意味の名であろう」とし、『江戸町づくし稿』に「行合坂 我善坊町と麻布仲町の間」と記しているという。「現に行合坂とよんでいるところは江戸時代には武家地であったが、市兵衛町と飯倉町の間という意味で仲之町とよばれた。それが行合坂のおこりであろうか。後考をまつ。」とし、結論は出ていないようである。

横関は、行合坂を乃木坂の別名とし、この坂とは関係せず、むしろ前回のように、この南側の坂を落合坂としている点が気になる。

山野は、「坂名の由来は、二つの坂がすり鉢状に行き合っているからとか、諸説ある。」と形状由来説を紹介している。

行合坂上(北側) 行合坂上(北側)から坂下 以上のように、この坂名の由来ははっきりしないようである。

左側の写真は坂下までもどり、北側に上った坂上から撮ったもので、右側の写真は同じく北側の坂上から坂下を撮ったものである。

この坂は、両方の坂形状がよく似ており、きれいな対称形をしているが、このような坂も珍しい。

北側の坂上を直進し、次の信号を左折し、広い道路を横断して直進すると、長垂坂上、さらに、丹波谷坂上である。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
「切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く戦前昭和東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く昭和三十年代東京散歩」(人文社)

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