杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

クスノキの番人

2023年10月11日 | 
東野圭吾(著) 実業之日本社文庫
 
恩人の命令は、思いがけないものだった。
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。
心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。
「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と……。
そのクスノキには不思議な言伝えがあった。(あらすじ紹介より)


玲斗の境遇はかなりシビアです。妻子ある男の子として生まれた彼は認知もされず、その母も小学生の時に亡くなり、祖母・富美の手で育てられます。
働いていた会社で客に欠陥商品である事を話したことで不当解雇 され、退職金代わりにと盗みを働くのですが、すぐにばれて捕まってしまいます。
なんか、どうしようもない負のスパイラルだよな~と思っていると、救いの手が差し伸べられるんですね。敏腕弁護士により起訴されずに釈放されるのですが、その交換条件が何とも変わったものだったのです。

実は玲斗の母には異母姉がいて、それが依頼主の柳澤千舟です。
柳澤家の敷地内にある月郷神社の管理が仕事ですが、一番大事なのはクスノキの管理だと言われます。柳澤家は代々クスノキの番人をしていて、現在は千舟が務めていますが、その手伝いを彼女は玲斗に命じます。といっても、千舟からは詳細を教えてもらえず、自分で見つけていかなくてはなりません。

巨大なクスノキの幹の内側には洞窟のような空間があり、そこでお祈りをすると願いが叶うと言われていて、昼間は出入り自由ですが、夜間は予約制で祈念者以外誰も近付いていけないというルールがあります。

社務室で寝泊まりし、仕事にも慣れてきた頃、祈念に訪れている佐治寿明の娘の優美に父は何をしているのかと聞かれます。父の浮気を疑う優美に強引に頼まれ、玲斗は優美と一緒に佐治の行動を探りながら、クスノキについて考えを巡らせることになります。

予約が新月と満月の夜に集中していることに気付いた玲斗は、千舟にその訳を尋ねますが、いずれ分かるとかわされます。

老舗「たくみや本舗」の跡取り息子の大場壮貴が、付き添いの福田守男とやってきます。「しっかり気持ちを込めてお願いします」と言う福田に「俺なんか無理に決まってるだろ」と最初から諦めている様子の壮貴が気になります。

千舟にスーツ一式を誂えてもらい、柳澤グループの謝恩会に連れ出された玲斗は、場違いな思いになりながらも役員たちが顧問である千舟を排除しようとしていること、彼女が原点と考えるホテルを閉鎖しようとしている動きを察します。

千舟に祈念記録のデータ化を命じられた怜斗は、同じ名字の人が別々の夜に祈念していることに気付き、その関係について千舟に尋ねると、「重要なのは祈念の違いは何か」だと答えが返ってきます。

佐治のきっかけが遺言だったり、壮貴の話から祈念を申し込む際に戸籍がチェックされる事を知り、祈念にやってきた津島 老人が妻に祈りが伝わるかは自分が他界した後の事だと話しているのを聞いて、怜斗はクスノキは祈念者の念を預かる力があるのかもと考えるようになります。

父の尾行を続けていた優美は、女性と一緒にいるのを目撃し、ますます疑いを濃くします。
5年前の名簿にあった「佐治喜久夫」が、介護施設に入っていた佐治の兄だとわかりますが、既に亡くなっていました。玲斗は優美を誘って、喜久夫が入っていた施設を訪ねます。当時の担当者から、彼が彼が5年前に一度だけ外泊したことを聞き、祈念を紹介した向坂春夫(既に亡くなっています)と親しくしていたことを知ります。

優美はクスノキに盗聴器を仕掛けることを玲斗に認めさせますが、佐治に気付かれてしまいます。喜久夫のことを持ち出すと、佐治は祈念の内容を話してくれました。

佐治の兄は跡継ぎとして育てられていましたが、ピアノの才能に気付いた母は音楽の道に進ませようとします。しかし音大に進んだ彼は挫折し、最終的に重度のアルコール中毒となっていました。責任を感じた母は最期まで兄の世話をしていましたが、兄の死後認知症となってしまいました。
佐治は、母宛ての未開封の兄の手紙を発見し「クスノキに預けました」の意味を千舟に尋ねました。そこで預念者(新月の夜に念を預ける人)と受念者(満月の夜に受け取る人)の関係と、血縁者なら受念できることを知らされ、受念した彼は、喜久夫の想いとピアノの音色を受け取ります。これ兄から母への贈り物だと思った佐治ですが、音楽の素養のない彼は何度も受念に来て頭の中の曲を再現しようとしていたのです。優美が愛人と誤解していたのは佐治の鼻歌を再現する協力をしていたピアノ講師でした。

音楽に自信のある優美が父が預念した後に自分が受念したいと考えます。預念者の邪念までも全て伝えてしまうことを怖れる佐治でしたが、優美に説得されて決意します。亡くなった後で受念するという意味はそういうことなのかもと玲斗は思います。旅の恥じゃないけど死んじゃったらもう関係ないもんね😁 

壮貴から受念できない場合はどうしているのかと問われた玲斗は、彼が父と血縁関係がないのではと気付きます。実際、壮貴は14歳の時に父から告げられていました。それなのに祈念した理由は、周囲の疑念を取り除くためと気付いた玲斗は、壮貴に「父が生きていたらどう考えるか想像してみては」と伝えます。後日訪ねてきた福田は、自分も彼が実子でないことを知らされていたことを話し、壮貴の変化に故人の志が受け継がれたことを知って玲斗に感謝を伝えました。

千舟の家に初めて招かれた玲斗は千舟から屋敷を引き継いで欲しいと言われ合鍵を渡されます。さらに、隠し部屋に保存されている150年余の祈念の記録と祈念のための蝋燭を見せられ、製法を後日教えると言われます。

銭湯で以前にも会った老人との会話の中で、千舟が自分に何か念を残したと気付いた玲斗は密かに受念しました。

千舟が顧問を自ら降りることとその理由を知った玲斗は、彼女の無念も受け取ります。忘れ物を届けるふりをして役員会議の場に同席した彼は役員たちの前で千舟の功績と残した思いを熱く語り、その姿に千舟は彼が受念したことに気付きます。

完成した曲は、佐治の母・貴子が入居している介護施設で演奏されます。玲斗と千舟も招待され一緒に聴きます。演奏が始まると、貴子の様子に変化が現れ何か言い始めます。「喜久夫のピアノ」と何度も言いながら涙を流す姿に、喜久夫の想いが確かに伝わったのだとわかります。

受念して、千舟が認知症を発症していることを知った玲斗は「忘れるってそんな悪いことじゃないかもしれませんよ、覚えていなくてもいいじゃないですか」と言います。彼女がいつも持ち歩いていた手帳は大事なことを忘れないためのメモだったのですね。

千舟は、自分のプライドや嫉妬から妹の美千恵に姉らしい事をしてやれなかった事を悔やんでいました。富美から玲斗が警察に掴まったと知った時、妹にしてやれなかった事をすることが妹へのせめてもの詫びになると思い
、またクスノキの番人の後継者を育てたかったというのもありました。

全てが終わったら命を絶つつもりでいた千舟の気持ちをも感じ取っていた玲斗は「どんな千舟さんでも自分は受け入れます」と訴えます。
千舟は手帳を開いてホテル柳澤の存続が決定したと話しました。

預念者の言葉ではすべてを伝えられない想いをクスノキは記憶し、受者に伝えます。すべてというからには隠しておきたい負の感情もということになるのですが、だからこそ想いの強さを感じます。そして両者の間には深い信頼関係があることもわかります。

どこかなげやりだった玲斗が、番人を通して変わっていく姿が描かれ、千舟との間にも深い信頼関係と愛情が育まれていくのも心地よかったです。
優美に対する下心で彼女に協力することになったけれど、どこかで自分の気持ちをセーブしているのが少し切ない。でもこの二人、結ばれそうな気もしますが😊 
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