杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

善き人のためのソナタ

2007年11月25日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2007年2月10日公開

冒頭に出てくる冷酷そうな尋問のシーンから、非情な男に見えたヴィースラーの、やがて変化していく自らの感情に戸惑う様子や密やかな決意に、温かな思いが残る作品でした。

1984年、東西冷戦下の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)のヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタの監視を命じられる。彼らが反体制的であるという証拠を掴めば出世の道も拓けていた。しかし、国家に忠実に仕えてきたヴィースラーが、盗聴器を通して知ったのは、反体制思想の証拠だけでなく、自由や愛、音楽や文学といったものの素晴らしさでもあった。


初めは、クリスタへの横恋慕から彼らの監視を提案したかと勘ぐりたくなったのですが、彼の人となりがわかるにつれて、純粋な正義感からだったのだと考え直す自分に気付きました。真っ直ぐな故に、ドライマンたちの「正しさ」に触れ、彼らを守ろうとするようになるヴィースラーは、その時点で自らの出世や未来を犠牲にすることも厭わなかったようです。この感情の変化に「善き人のためのソナタ」が効果的に使われているので題名になったのかな。

ヴィースラーの上司である友人も彼の裏切りに気付きながら、敢えて真実の追究をせずに彼を閑職に追いやる事で留めています。逆にクリスタへ邪まな欲望を持ち関係を迫る大臣の品性の卑しさが浮き立っていました。

1989年のベルリンの壁崩壊を、不遇な職場の片隅で同僚から知らされるヴィースラーは静かに状況を受け止めます。その彼が、ドライマンの書いた「善き人のためのソナタ」という本の扉書きに彼への謝辞を見つけて、誇らしげに書店の店員に差し出す時の笑みが印象に残りました。

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