陽だまりのねごと

♪~思いつきひらめき直感~ただのねこのねごとでございますにゃごにゃご~♪

4年目の秋

2005-09-21 23:04:50 | Weblog
夫の命日は明日。四年前の今夜、夫の意識はもうなかった。物言わず大きく口を開けて、時折、このまま呼吸をしないのではないかと思える程、間隔を開けながら、吐いたり吸ったり。舌はもう奥にまるまってしまって、二度と話をしたり、おいしいものを食べたりは出来そうなくなっていた。

「おつかれさま。もういいよ。息を止めて楽になってよ。」

心の中で繰り返して、水を含ませたスポンジで何度も乾いてゆく口を湿らせてやりながら、ベット横に座って一夜を過ごした。翌朝10時頃、最後の息は吐いたのか、吸ったのか、それっきりだった。55歳。誕生日から1ヶ月と4日。22回目の結婚記念日まで後14日足らなかった。

亡くなるその時まで、消えそうな命に懸命に付き合った。私はあの日、失恋と失業と一辺にしてしまった。もう後は生きている事すら希薄で、『余生』としか思えなかった。

どっこいあれから4年。私はしぶとく生きている。2年目の秋。おそらくストレスから全身の毛が抜けたが、ふたたび再生の薄毛が頭部を蔽い始めていた。思い切ってカツラを外した。髪をなくした事がひとつの禊ぎの様にも思えた。私自身が新生になったような気持すらした。3年目の秋。10年近いブランクを経てまた同じ職場でヘルパーとして働きは始めていた。

ひとりである事にはすっかり慣れた。時折、遠慮の無い同世代夫婦の何気ない姿がたまらなく羨ましく見える事もある。ないものねだりはしても始まらない。今夜はいつもは焚かない線香を焚いている。のんべぇの癖にあんこ好きだったから、仏壇に最中を供えた。明朝、仕事前に墓参りにいこう。ビールを買って。銘柄はいつものアサヒスパードライで。

  季節を忘れず
  曼珠沙華が咲く
  ひとりで見る
  曼珠沙華が咲く
  私は強く成れただろうか


「曼珠沙華がいっぱい咲いてきれいよ。おうちへ帰ろうね。」

病院の地下から葬儀屋の車で出た。私は冷たく硬直して物言わぬ夫に話しかけた。車窓からみごとな曼珠沙華が続いて見えた。まるで家まで花道だった。夏の盛りに病院へ入って、季節の移ろいすら気がつかなかった。


*写真はBBSからいっくんのをお借りしました。