細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

オープンイノベーション

2023-10-07 11:54:41 | 研究のこと

先ほどの投稿に続き、もう一つ、書いてみました。ざっと書いたので、今後推敲しますが、上手くいけば、書籍に含まれる原稿になるかと。

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「オープンイノベーション」

 2021年6月に,長岡生コンクリートという静岡県の伊豆の生コン会社の社長の宮本充也さんと初めてオンラインで会った。私より5つ年下の方である。福島高専の専攻科を出て大学院生として私の研究室に入ってきた志賀純貴君が自分の研究でいろいろ調べているうちに,宮本さんに会いたいということになり,お会いした。

 7月に私は志賀君らと長岡生コンを訪問し,宮本さんと対面で会い,いろいろと話を聞いた。様々な衝撃を受けた。その後,私は宮本さんやその仲間たちとチームを形成し,様々な技術開発を行い,スピーディーに社会実装していく,まさにオープンイノベーションを体現している状況にある。

 日本の建設現場で使われるフレッシュコンクリートはほとんどが生コン工場で作られて出荷されている。日本の生コンは,一時は5000社を超え,今は3000社を少し上回る程度であるが,数多くの零細企業も含む生コン会社が,「組合」制度のもとに出荷している。世の中の物事にはすべてプラスの面とマイナスの面があるが,生コンの組合制度は,日本の発展期に全国で安定した品質の生コンを出荷するという意味では多大な貢献をしたと思われるが,現在では新技術の導入を阻害しているなどのマイナス面が指摘されることも多い。

 私自身,コンクリートの研究者でありながら,またそれなりに実務とのつながりの多い研究者でありながら,生コン会社の方々と連携して技術開発を行ってきた経験がほとんどなかった。宮本さんからは,大学やゼネコンがいくら研究室で新しいコンクリートを開発しても,最終的に製造するのは生コン会社だから,生コン会社が作れないもの,作りたくないものを開発してもうまくいかないと教わった。

 生コンは,地産地消の代表格とも言え,地域によって使う骨材も異なる。また,生コン工場で発生する様々な廃棄物の処理に皆が知恵を絞っているが,副産物を有効利用できずに廃棄物として処理しているものがかなり存在する状況にもある。

 私と宮本さんたちのチームでは,生コン会社の視点から技術開発を行う。実装できない技術を開発しても仕方ないので,実装を常に念頭においてアイディアを議論する。そして,思いついたらすぐに工場の実験室で実験し,さらにはすぐに実機のミキサーで練り混ぜる。驚くほどのスピードで商品として出荷されるものもある。もちろん,品質はしっかりと確認した上での話である。

 日本には,JISを代表とする様々な技術基準,品質基準がある。市場に流通する材料は,それらの基準を満たすものでなければならない。しかし,基準を満たすために,または新たな基準を整備するために,相当な時間を有する場合も少なくない。一方で,現行のシステムの中ですぐに流通できる革新的な建設材料を開発し,社会実装することもできる。要は,従来製品と同等以上の性能である材料を開発し,性能をデータで示すことができれば,市場は受け入れるのである。もちろん,従来製品より安くなければならない。放っておけば廃棄物になってしまう副産物を真に有効に利用できれば,価格は安くできるのである。私自身が関わっている製品としては「イワモル」「オワコン」などがあり,社会実装を進めながら基礎研究を行うオープンイノベーションから極めて多くのことを学んでいる。

 宮本さんは,ビジネスモデルの構築の面でも革新的な人物である。毎日ブログを3本必ずアップすることを7年以上続けているそうで,オワコンやイワモルなども検索すると宮本さんのブログ(生コンポータル)にすぐに到達する。がんじがらめとも言える組合制度が現存する社会において,インターネットでオワコンなどが購入できる仕組みを構築し,800社以上もの生コン会社とネットワークを構築し,一般市民が自分の家の防草対策にオワコンを購入するという状況が爆発的に拡がっている状況である。オワコンは造粒されたポーラスコンクリートで,透水性のあるコンクリートを作ることができる。オワコンには様々な副産物も活用できるので,環境負荷を極限まで低減させたオワコンも開発され,すでに実装されている。

 「餅は餅屋」と宮本さんは言う。私のような大学の研究室の実験室で,何度も何度もコンクリートを練るような実験を,「素人」の学生と一緒にすることは難しい。しかし,私の研究室と生コンのプロたちや施工者たちがチームを組むことで,オープンイノベーションが可能となる。大きな方向性を共有し,それぞれが得意なことを持ち寄って,自由闊達に議論し,自律分散的に動くことで,オープンイノベーションが実現できる。

 つながる,ということは楽しく,刺激的であり,そして学びがあまりにも大きい。


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