細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

伝えるよりも、まず理解

2012-11-06 16:52:41 | 教育のこと

土木工学(Civil Engineering)とは何なのか、人間の文明社会にとってどのように重要なものなのか、一般の市民に伝えるのは簡単ではありません。

私自身のことを記しておきます。東日本大震災が発生して、3月と4月に調査に行って自分の目で現地を見て、土木学会会長を含むいろいろな方とたくさん話をして、Civil Engineering無しにこの国は成り立たないことを肌で感じました。逆に言うと、東日本大震災が発生する以前は、私も心のどこかでCivil Engineeringに対するネガティブな感情がわずかながらあったということです。いわゆる長年の公共事業バッシングや「コンクリートから人へ」などの「思想」は私をもわずかながら蝕んでいたということでしょうか。

また、昨年の10月から、「土木史と技術者倫理」という講義を担当することになり、とにかく学生に、歴史、文明、日本、土木に興味を持ってもらい、どんどんと読書するきっかけとなる講義にする!ことを目標に、全力で準備し、合田先生の秀逸な教科書を軸に、手段を選ばずに講義に臨んでいます。この講義は私にとって非常に大きな機会となり、Civil Engineeringを深く知る機会となっています。また、それを低学年の学生という、ある意味では市民の代表格のような方々、しかも100人に迫るような聴衆に、魅力的に伝えなくてはならない、というのは私の本領を呼び起こす貴重な機会になっています。

この二つの出来事をきっかけに、私のCivil Engineeringに関する理解や見方、日本に関する理解や見方は深く広くなっていくことになりました。まだまだ浅く、狭いのかもしれないけれど、深く広くしたい、という欲望はもう止められません。

「私ですら」、Civil Engineeringのことを以前は分かっていなかった。当時37才の「大学教員」がです。本質を理解していなければ、 本当に伝えることはできません。伝える側のレベルがこんなお粗末ですから、伝わらないのも仕方がない。


日本の現状はよくないと思う。様々な事象に対する正確な(なるべく)認識を、多くの国民が持てていない。そのような国民に支えられた政治家たちがまともな判断をするわけがない。文明や国家というものは広く大きく捉えないと、部分最適化が全体を崩すことに容易につながります。歴史も踏まえて広く大きく捉え、かつしっかりと本質を捉えて勉強しないと全体像が分からない。国民もそうですが、政治家がどのような勉強をされているのか聞いてみたくなります。

適切に伝える努力も大事だし、マスコミと技術者の信頼関係なども時間をかけて醸成していけばよいと思うが、伝えるよりもまずは理解を深めるのが大事。私の土木史の講義は、毎年100人近いCivil Engineeringのファンを量産することになるので、とても重要であると認識をしています。彼らが将来の日本をリードしてくれるであろうことを信じて、私も勉強しながら、講義の後半戦も全力で取り組みたいと思います。