中国の楊外相がアジア欧州会議(ASEM)で尖閣諸島問題を取り上げ、先の国連演説に続きその領有を主張した。この会議がその名の通りアジアと欧州の関係強化なのに、二国間の問題をことさら取り上げ演説する神経が理解出来ない。さすがに野田首相も即座に反論に出て日本の立場を強調した。
日本のメディアはさほど関心を示していないが、首相の演説は理にかない堂に入ったものだと評価出来る。「日本は戦後、一貫して平和国家としての歩みを堅持し、アジアにおいても平和と繁栄の実現に尽力し、多大な貢献をした。今後とも日本は太平洋地域の友人とともに基本的価値観を共有する欧州の友人と歩んでいく決意だ。…」
日本は戦後憲法の制約があるとはいえ、対外戦争や内戦とは無縁であり、これは世界でも希有な平和国家であった証拠だ。野田首相の「平和と繁栄の実現に尽力」してきたのは事実だ。それに引き換え、中国ではインド、ソ連、ベトナムなどと絶えず国境紛争を繰り返し、国内ではチベットに侵攻して民衆を弾圧した。とても平和国家にはほど遠い
一方、中国外相は70年近く前の「反ファッシズム戦争の結果とその秩序」といった旧態依然の正当性を持ち出す。さらにこれに飽き足らず、なんと600年前、明の時代のことを引き合いに出し、長年占有を言い出す始末だ。だが、中国の歴史を見れば、日本と違って歴代の王朝に連続性はない。王朝が変わるたびに国家が変わっていく。また明の時代の初期、永楽帝の時代に海外遠征が盛んで、一時ベトナムも征服して支配していた。ASEMの開催国はラオスだが、その隣国ベトナムの首脳は中国外相の演説を聞いてどう思ったことだろう。
遠い歴史的な領有を持ち出したら、中東やヨーロッパなどはとてもではないが、領土問題は収拾がつかなくなる。しかし、中国は未だに中華思想から逃れることが出来ず、古来の歴史から自国の立場を主張する。そんな国家観、歴史観が違う隣国とは日本人の一部が考えるような全面的友好関係を築くことは困難だ。警戒を怠ることなく、他の周辺国との友好関係を構築することが必要だろう。