書のジャンルに、一字書というのがあります。
書壇では独立書人団という会が、淡墨を使った一字書を多く発表しています。
漢字はもともと中国から伝わったものですが、一人の人間が発明したものではなく
長い年月をかけて、多くの人々がさまざまな工夫を重ねて作り出されたものです。
そして漢字の素晴らしいところは、それぞれに意味を持っているということです。
たとえば、「なつのくも」という平仮名の一字一字は発音を示すものですが、
「夏の雲」と漢字で示すと、「夏」「雲」という漢字は一字でもことばとして
意味を表すことができます。
世界広しといえども、一字だけで意味を表すことができるのは、漢字だけです!
それゆえ、一字書には特別の魅力があるのです。
たとえば今日の「雲」は、画仙紙に淡墨で書いたものですが、
夏のにわか雨のあとの、うって変わって青空に虹がかかり、その横を
微笑みながら流れていく雲を想像して書いてみました。
つまり、「雲」といっても、入道雲、雷雲、いわし雲、流れの速い雲、
ぷかぷかと浮かんでいる雲・・・と、無限の「雲」があるということです。
書く人の感性によって、たった一字が、個性を持った世界にたったひとつの
一字になるのです。
そこには、上手とか下手とかはたいした意味を持たないと思います。
上手いから素晴らしいというものでもありません。
私は逆に上手くなればなるほど、その人らしさが消えていくように思います。
よく、私は字が下手だから・・という人がいますが、私は下手な字なんて
ないと思っています。ただ、心無い雑な字はある。
どんな字でも、心を込めて丁寧にかけば、その人らしさが現れる。
本物の書とは、今ここにいる自分が、自分らしくただ在るということを
表現できた時、純粋に人の心を打つのだと思います。
上手く書こうと思えば思うほど、かえって美しいものが逃げていく、
そんな気がします。