本物の美しさって、なんでしょう。。
色、形、質感、そういった外見からだけではない、もっと根源的な魂の響きが
本物にはあるように思います。
民藝運動の創始者である柳宗悦氏の影響で、無名の陶工の自由でおおらかで
簡素な作品に感銘を受けた陶芸家の河井寛次郎氏は、「美は追うものではない」
として、裸の心でつくり、あとからついてくる美を求めた人だったそうです。
ところで。
私が書を始めたきっかけは、出版社に勤めていた頃、取材で立ち寄った百貨店の
催事場でやっていた「中川一政~裸の字」という書画展に立ち寄ったことでした。
油絵作家の中川氏の書画は、いわゆる書家的な上手な字ではないのですが、
飾り気がなく素朴で力強く、自由な心で溢れていて、まさに裸の字たちが
私の全身にびびびっと響き、「これなの!私が探していたものは!」と心の中で
叫びながら、人目もはばからず涙がポロポロ。
その帰り道、私も書いてみたい!の思いがつのり、結局半年後会社を退職し、
書を始めました。
あの時の衝撃は、本物に出会った感激と興奮だったのでしょう。
心のどこかにもやもやしたものを抱えていたり、悲しかったり悔しかったり、
自分に自信がなくてただ焦ったり・・そんな時は「裸の字」を思い出します。
何ものにも捕らわれず、ただ無心に書かれた作品は、まさに無一物の境地。
元々は何も無いのだということを知り、心を曇らせることなく自分と向き合う。
そんな境地、まだまだ遥か彼方ですが・・・
私にとって本物の美しさとは、人を羨むことも自分を卑下することもない、
素直なまま、ありのままであること・・・かな。