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おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「ヒトラーのウィーン」(中島義道)新潮社

2012-06-26 19:20:17 | 読書無限
 続いて、若き日のヒトラーに関するもの。筆者の中島さんは、哲学者。時間論関係などの本を読んだことがありますが、新書版タイプが多く、けっこう親しみ深い内容でした。
 今回、手に取った時、異色な印象を持ちました。どういうわけで、ヒトラーを採りあげたのか、と。中島さんの哲学との関係性は?
 しかし、ご自身がウィーンに自費留学(挫折し、将来の不安と混沌をかかえながら異国の地で哲学、思索にふけった自らの)体験をオーバーラップさせながら、若き日のヒトラー像に迫っていく内容に驚きました。
 題名にもその思いが伝わってきます。「ヒトラー」にとっての「ウィーン」は、「筆者」にとっての「ウィーン」でもある。いわば心象風景としてのウィーンを語っていく趣向です。そこに、この書のおもしろさがあります。
 挫折体験としてのヒトラー像。それが後にナチズムとして形成されていく彼の思想形成につながっていったこと。このことをウィーンの町並み(ヒトラーが観察し、共感し、批判し、拒絶された町並み、権力者、市民の実態。それに、中島さん自らが見聞きし身心に刻んだ町並み・人々の姿)を絡み合わせて書き進め、ヒトラー像(ヒトラー自身もつかめなかった)の真実と虚構を捉えようとします。特に建築家を志望しその望みを叶えられなかったヒトラーにとって、シェーンブルン宮殿、国立歌劇場、ウィーン大学、国会議事堂、英雄広場・・・。政治に関心を持ちはじめ、次第に反ユダヤ主義者になっていく過程を克明に追っていきます。。
 「ヒトラーにとって、ウィーンは足腰立たなくなるほど自分を痛めつけた所である。だからこそ、結果として絶望から這い上がる仕方を教えてくれた所でもある。その『最も過酷な人生の学校』(『わが闘争』)を卒業したからこそ現在のこの自分がいるのだ、と」。その心の根っこには「憎悪」があった、と筆者は語りながら、「心象風景」そのものをヒトラーの眼差しに感じとります。
 
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