「いやあ、こりゃ大変だ」
家の建て替えを行うことになり、仮住まいへの引っ越しを今日行った。
仮住まい先は、近所の一戸建てを借りることができた。歩いて5分もかからない。半年ほどここで生活することになる。家具など大型の荷物は運送業者に任せたが、生活用品などは車でなんども運んだ。この1カ月の間は引っ越し準備に追われた。細々としたものを整理し、不要なものはだいぶ捨てたはずでも、仮住まいに運び込むと床がダンボール箱で埋まった。これらをまた整理するのかと思うと、それだけでくたびれる。
一年前ぐらいになるのだろうか。
かみさんが言った。
「家を建て替えて、新しい家で老後を快適に過ごしたい」
私は言った。
「年も年だし、この先の人生は長くない。いまの家で十分だ」
団塊の世代夫婦が、いまさら50年持つ家を建ててどうするのか。いまの家を改築すれば十分だし、もちろん建築資金のこともあるのだが、それ以上に引っ越しやらの面倒を思うと、建て替えには反対だった。
かみさんは走りだしてしまった。工務店を選び図面ができてしまった。しかし私はどうしても気が進まない。
私の人生設計は70歳までしか考えていない。常々そう言っている。この先10年もない。そうであれば、いまの家で十分なのである。かみさんは85歳まで生きるつもりだから、新しい家をと望む気持ちもわからぬでもない。しかし、自分は長生きするといってはいるが、逆に私のほうが長生きするかもしれない。神様がこっそりと私の寿命を教えてくれればいいのにと、この時ばかりは思ったものだが、こればかりはだれにもわからない。
しかし、とうとうかみさんは自分の意思を通した。私は今でもどうも納得しないのだが、ここまで事が運んでは、折れるほかない。
6月に入ると取り壊される。長年住み慣れた我が家に向かってシャッターを切った。万感の思いを込めて。