見知らぬ心臓

2013-10-08 15:20:28 | 日記

シャルロット・ヴァランレイ著   マガジンハウス刊

正直言って、このテは苦手です。勿論、書かれていることがいい加減なものだと言っているわけではない。ただ、すんなりと私の頭の中には入ってくれないということなのだが……。
著者はベルリン映画祭女優賞受賞の映画俳優。内容は「17 歳でHIVに感染、34歳で心臓移植。新しい心臓に刻まれた記憶が次々引き起こすミステリアスな事件。そして明かされる驚愕の事件」(オビより)の通りである。しかし、エンディングまで読むと、途端に五里霧中の中に放り出される気がする。少なくても、私は。興味がある人にはお勧めする(あまり、自信はないけれど)。
これが事実だとすると、改めて考えなければならないことがふたつある。ひとつは、臓器にもその持ち主の記憶が宿っている、ということである。「記憶は脳にある」、「心臓の細胞にも記憶がある」ということが並立してしまう。これまでの常識から言えば、ジレンマである。もうひとつは、臓器移植にはこれまで医学が考えて来なかった、別の側面があるかも知れない、ということである。本書だけではなんとも言えない。
やっぱり、このテは苦手です。


柳橋物語 むかしも今も  山本周五郎 長編小説全集第六巻

2013-10-05 15:17:51 | 日記

新潮社刊

第三巻『さぶ』と比べてみる。『さぶ』はなるほど江戸の市井の人々が主人公だが、設定を変えても(例えば、武家階級の人々)、話の構図は成り立つし、そこに書かれるはずの人情の機微も立派に通用する。つまり、個人の成長物語という課題に集約できる。それは『ながい坂』と同じ構図だと言っていい。勿論、江戸の市井の人の物語ではあるのだが。
一方、『柳橋物語』と『むかしも今も』は、言ってみれば天変地異に遭遇した市井の人々の物語である。主人公はそれらの群像の一人でしかない。そして、これは時代を超え、国を超えた庶民の生活と感情に共通するものを主題にした小説だと言えるのではないか。ここには、明確な違いがあるのではないか?
どうも、この『柳橋物語』『むかしも今も』が江戸の人情を書き上げた小説とは、言い切れない気がしてならない。


クマムシ博士の「最強生物」学講座  -私が愛した生きものたち-

2013-10-04 14:53:08 | 日記

堀川大樹著   新潮社刊

「クマムシ」を知っている人、少ないだろうな(私も知らなかった。表紙を見た時「タマムシ」と読んでしまった!)。クマムシは微生物だと言っていいのだろう。しかし、とてつもなく最強の生物だそうだ(ヒトの致死量の放射線に耐え、不老不死)。で、滅多にいない生き物かというと、違う。私達の身の周りに沢山いるそうだ。この生物を詳細に研究すれば、人類の将来に多大な成果をもたらす筈なのだが、その研究者は著者を含めて世界でも100人くらいしか居ないらしい。
と言う訳で、本書に占めるクマムシの話は4割くらいである。仕方がない。まだ分からないことが多すぎて、詳細を書く段階に至っていないからだ。これを詐欺だと怒ってはいけない(本文を読めば分かる。そして、その真意を理解してあげて欲しい)。
その代わりに、著者は最新の科学ニュースを伝えてくれている。併せて、研究者を志す学生へのアドバイスも豊富である。その中で感心したことがひとつある。
英会話の上達法である。なんと、教材は「漫画」である。これは、日本の漫画が国際化して英訳本が出たお蔭だろう。私の時代には考えられなかったことである(著者の場合は『ジョジョの奇妙な冒険』。『ドラえもん』でもいいそうだ)。考えてみれば、漫画は会話で成り立っているのだから、当然かも知れない。これは学生に限らず、英会話を上達したい人はチャレンジしていい方法だと思った。


危機の女王 エリザベスⅡ世

2013-10-03 08:46:00 | 日記

黒岩 徹著   新潮選書

国王という地位は、過酷なものだな、というのが通読した感想である。これ以上は書かない。他にも類書は読んでいたし、大半のことは承知していたので…。ただ、読んでいて絶えず思わざるを得なかったのは、日本の昭和天皇のことだった。ほぼ同時期に国王になられたし、同じように大戦を経験された。その間のご苦労は今では私達は知っている。それを乗り越えたことは驚嘆としか言いようがない。
それ乗り越えたのは、課せられた責任と義務をしっかりと自覚していたからに他ならない。過酷なのは、誰かに肩代わり出来るものではなかったことである。考えるだけでぞっとする。
翻って、ここ数代の日本の首相である。よくもああ簡単にその座を明け渡すことよ。自分に課せられた責務なんてこれっぽっちも感じていない、としか思えない。だからと言って、お二人の爪の垢を飲ませても役には立たないだろうな。人格の違いとしか言いようがない。
本書とはかけ離れた感想だけれど……。


古事記とはなにか -天皇の世界の物語-

2013-10-01 15:32:00 | 日記

神野志隆光著   講談社学術文庫

もしかしたならば、『古事記』の読み方が変わるかも知れない。そういう意味では面白い本。
例えば、高天原と葦原中国と根之堅州国・黄泉国はこれまで天・地・地下(上中下)という、言わば三層の世界だとして読まれていた。しかし、著者の解説にしたがって読むと黄泉国は地上にある、つまり黄泉国と堅州国は平面的にあることになる。確かに、論理的に読むとそうなる(というか、納得できる)。しかし、そうなるとこれまでの三層の世界は上下二層の世界ということになり、物語の世界は一変してしまう。それだけではない。高天原は『古事記』にあって『日本書紀』にはない。
要するに、『古事記』は天皇の世界の神話的根源の物語なのである(従って、葦原中国に住んでいる人間については当然いるものとして何も言及されていない。他の国の神話にあるような人間の誕生については触れられていない)。
勿論、これほどわかり易い部分もあるけれど、素人にはとても付いて行けない難解な部分もあるので、私も完全に理解したとは言えないのだけれど…。唯、これまでの常識は『古事記』と『日本史書紀』を突き混ぜた話になっているという指摘は、認識しておいたほうが良い。
興味のある人は、ぜひ読んでみるといい。