栄花物語  山本周五郎長編小説全集 第六巻

2013-10-29 14:43:20 | 日記

新潮社刊

何度か読んだ本だが、こうして全集の一冊として読むと感想が違ってくる。今回は思わず『樅の木は残った』と読み比べしてしまった。私なりの感想だが、小説の構図としてはさほど変わらないのだが、大きな違いがふたつあるような気がする。
ひとつは、主人公原田甲斐と田沼意次の差異である。前者は、自分の意思に協力する周りの者達への心遣いがあった。「済まない」と思い、「怨んでくれるな」「分かってくれるな」という詫び、そして、生き残るであろう者達への配慮があった。一方、後者にはそうした心遣いは見られない。
ふたつ目は、本書の場合、「共感者の勝手な思い込み」が、各々の行動の主体になっている。意次はそういうものに惑わされず、冷淡のようにさえ思える。幕府の為政者と、大藩とはいえ一藩の家老の違いだろうか?
ふたつの立場の違いを書き分けた、という意味では納得できるけれど、振り廻される人間にもう少しシニカルであったならばと思う。これでは、彼等は余りにも独りよがりで滑稽だ。
まっ、勝手な思い込みだけれど……。