樅の木は残った 続

2013-06-21 15:40:34 | 日記

以前に、本書は「歴史小説では唯一の政治小説だ」と評した書評を紹介した。正しく、そうだと思う。
本書に悪人は登場しない。政治とは、政権を担う政治家の政治信条によって施行され、当然だがそこからは政治利権が生じる。本書の主要な登場人物は突き詰めて言えば、その政治利権に振り廻された人達である(何人かの小悪党はいるが、それ自体はめずらしくもない)。誰もが自分の主張に疑問を持っていない。それどころか、それなりに正当性を確信している。
ここが、ポイントかも知れない。政治信条→政治利権→自分の主張は正しい、という構図がそうさせているのである。勿論、甲斐も埒外ではない。仙台藩六十万石の安泰という「政治信条」に拘束されているのだ。
世界の国々の騒乱を見てもその構図が見て取れる。日本でも、例えば原発ひとつ以ってしても、その構図が透いて見える。その意味では、この小説は充分現代的でもある。
それにしても、原田甲斐宗輔の深謀は見事というしかない。歌舞伎の『伽羅先代萩』の仁木弾正は極悪人として登場する。これは、幕府・仙台藩が甲斐の筋書きをそのまま踏襲したものである。原田甲斐の目論見どうりだったということである。