おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

トリコロール/白の愛

2024-01-20 08:58:51 | 映画
「トリコロール/白の愛」 1994年 フランス / ポーランド


監督 クシシュトフ・キエシロフスキー
出演 ズビグニエフ・ザマホフスキ ジュリー・デルピー
   ヤヌシュ・ガイオス ジュリエット・ビノシュ

ストーリー
美容師コンテストでグランプリを獲ったことのあるポーランド人美容師のカロルはフランス人の妻ドミニクとの離婚調停のために裁判所を訪れていた。
カロルは店も車も銀行口座も全てドミニクに取られてしまい、残されたのは旅行カバンひとつのみだった。
全てを失い、行く宛てのないカロルは同じポーランド出身のミコワイという人物と出会った。
ミコワイは「同じポーランド人で死にたがっている者がいる。手を貸す気はないか」と持ち掛けてきた。
カロルはミコワイと共に自宅マンションを遠くから見つめ、ドミニクに電話をしたのだが、彼女は情事に耽っている最中だった。
絶望したカロルはミコワイにポーランドに連れていってくれるよう懇願し、大きなトランクケースの中に隠れて飛行機に乗り込んだ。
ところが、カロルはトランクケースに入ったまま数人の男によって盗まれてしまい、殴られて雪原に置き去りにされてしまった。
手元にあったのはパリで手に入れた、破損した少女の陶器製の胸像だった。
ようやく兄が経営する実家の理髪店に辿り着いたカロルは胸像の修復を始め、美容師稼業に見切りをつけると、兄の店の常連客の紹介で両替屋の用心棒として働きはじめた。
ある時、両替屋と取引相手の交渉に同行したカロルは、車内で寝たふりをしながら二人が土地買収の交渉をしているのを盗み聞きし、計画を出し抜くため土地の所有者のもとに先回りし、信用を得ることに成功した。
カロルの出し抜き計画は両替屋にバレてしまうが、カロルは命がけで手に入れた土地を高値で売る商談を成立させ、大金を得たカロルはミコワイを共同経営者に迎えて会社を設立した。
会社は急成長しカロルは一気に大金持ちとなった。
しかし、ドミニクに電話をかけても相変わらず冷たくあしらわれるだけだった。


寸評
冒頭でカロルとドミニクの離婚裁判劇が描かれる。
カロルは性的不能を理由にドミニクから離婚を言い渡されるのだが、映画を最後まで見るとカロルの愛するドミニクへの復讐劇だと分かるが、当初はカロルの貧困ゆえの波乱の人生である。
カロルの身に起きる出来事はドラマチックであるが、現実的とは思えないどこか喜劇的なものである。
ポーランド人の彼はパリの地下道でミコワイと出会い、同じポーランド人で死にたがっている者がいるので手を貸す気はないかと持ちかけられる。
この提案自体が現実離れしているが、フランスからの脱出方法がトランクに隠れてポーランドへ向かうと言うもので、これまた喜劇的な方法なのだが描かれ方は喜劇的ではない。
同様の方法で海外逃亡を図る犯罪は起きてはいるが、仕掛けはもっと手の込んだものである。
カロルが事前に方法を語り、心配なのは盗難だと述べているが、サスペンスとしてなら余計な一言だったと思う。
荷物が出てこずミコワイがその事を訴えて、中身が友人だったと明かすが、その事が問題にならないのも不自然と言えば不自然なのだが、説明を省略するような形でストーリーはどんどん進んでいく。

カロルはやっとのことで兄が住むポーランドの美容院にたどり着くが、この兄は実に寛容で弟思いである。
感じるのは兄弟愛なので、カロルとミコワイの間にあるのは愛の一種である友情なのだと感じてくる。
カロルは兄の店の常連客である夫人の紹介で両替屋に勤めるようになるが、仕事内容は拳銃を渡されての用心棒稼業である。
この作品においてはシリアスな描かれ方をしているのだが、内容はきわめて喜劇的なのが特徴でもある。
両替屋と不動産屋を出し抜く手口も、喜劇的と言えば喜劇的なものとなっている。
そこからはとんとん拍子で事業に成功し、立派な社長に出世してしまう。
貧しかった者の出世物語のようでもあるが、省略的に描かれるのでその雰囲気はまったくない。
そこから予期せぬ展開でこの映画の本筋に入っていく。
何となく見ていた作品だったものが俄然興味を引く内容へと変質を遂げていく。
なんとカロルは自分の財産の一切をドミニクに譲る遺書を作成するのだ。
冷たくされてもドミニクへの愛が失われていないカロルの究極の愛情表現だと思えてきて、どこかにカロルに対する切なさのような感情が湧き上がってくる。
しかもカロルはその遺言を実行するために自分の死を選ぼうとする。
僕はてっきりカロルがミコワイに殺してくれるように頼むものだと思った。
その為にミコワイの殺人依頼があったのではないかと思えたからだ。
ところが物語はさらにジャンプアップしていくのだが、最終段階に至るまでの出来事はやはり突拍子もないもので、そんなことが本当にできるのかと思えるような内容である。
ラストシーンは刑務所で、以前にカロルがドミニクの姿を窓越しに見て絶望したシーンとダブるようなショットでドミニクが捕らえられ、そこでドミニクが手話でカロルに語り掛ける。
手話の内容はテロップで示されないが、何となく想像できる。
夫婦間に愛は完全に戻ったと思われるが、その愛は欺瞞の上に築かれたものだから、夫婦間の愛はそのようなものであろうと言うことで、その事が僕にとってはリアリティを感じさせた皮肉な映画である。