おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

つぐみ

2024-01-06 07:40:04 | 映画
「つぐみ」 1990年 日本


監督 市川準
出演 牧瀬里穂 中嶋朋子 白島靖代 真田広之
   安田伸 渡辺美佐子 あがた森魚 高橋節子
   高橋源一郎 下絛正巳 財津和夫

ストーリー
東京の大学に通うまりあ(中嶋朋子)のもとに、西伊豆松崎町に住む従妹つぐみ(牧瀬里穂)から、夏休みになったら遊びに来ないかと綴られた手紙が届いた。
まりあは高校まで母と共につぐみの両親が営む旅館で暮らしてきたため、つぐみとつぐみの姉・陽子(白島靖代)は、まりあにとって姉妹のような存在だった。
生まれつき身体の病弱なつぐみは、医師から短命を告げられたこともあり、周囲に大変可愛がられて育った。
結果つぐみは大変度胸の据わったわがまま娘に育っていた。
夏休みが始まり、まりあが西伊豆の松崎町に降り立つと、港には手を振るつぐみや陽子の姿があった。
天邪鬼のつぐみは相変わらずまりあに憎まれ口を叩くが、本心では久しぶりの再会を喜んでいた。
つぐみとまりあが、つぐみの愛犬ピンチを連れて浜辺へ散歩に出かけたある日のこと、二人は不良少年グループに取り囲まれてしまったのだが、その様子を見ていた青年が二人を助け出してくれた。
恭一(真田広之)というこの青年につぐみは淡い恋心を抱いた。
数日後、恭一が旅館に滞在している兄(財津和夫)を訪ねてやってきた。
思わぬ再会に心を躍らせるつぐみを見て、まりあはつぐみの恋心を知った。
その後、高熱を出したつぐみは寝込む日が続いた。
マリアは恭一の勤める美術館を訪ね、よかったら見舞いに来てやってもらえないかと伝えた。
しかし恭一がお見舞いに訪ねてくると、部屋にはつぐみの姿がなかった。
弱った姿を見せたくないつぐみは庭の片隅にじっと身を潜めていた。
恭一の美術館に回復したつぐみが遊びにやってきて、二人は自然と惹かれ合うようになりデートを重ねた。
しかし、つぐみと恭一の仲を羨む不良少年達は恭一に暴行を加え、さらに愛犬ピンチを連れ去ってしまった。
つぐみ達が探し回ってようやく見つけたピンチは浜辺で息絶えていた。


寸評
私は母親が離婚したので父親の顔を知らないで育った。
そんな私を叔父や叔母たちは可哀そうな子として可愛がってくれ甘やかされて育ってきた。
反面、「父親がいないのだからしっかりしなさい」とか、「母親が苦労して育てているのだから立派にならないとだめだ」などとプレッシャーもかけられた。
私を一人前に育てるために自分を犠牲にして働く母親に嫌悪感を抱いたのは、今から思えば私の甘えであり我儘な感情だった。
少しばかり皮肉れた性格であったように思う。

つぐみも病弱だったことで甘やかされて育ち、言葉使いも悪い我儘娘なのだが、それは特別視されてきたことへの反抗だったと思う。
加えて、自らの死への恐怖を覆い隠すための強がりでもあったのだろう。
牧瀬里穂はそんなに上手い女優だったとは思わないが、ここではつぐみを好演していて雰囲気を出している。
冒頭の東京の海から西伊豆の海へとつながっていく映像はこの映画の雰囲気を感じさせた。
ストーリーを盛り上げていくような描き方ではなく、断片的な出来事を紡いでいくような演出がとられているが、中嶋朋子をはじめとする語りに重なるように挿入される西伊豆の風景がより一層の雰囲気を醸し出している。
景色もそうだし、花火をするショットなどはノスタルジーを感じさせる。
僕の育った実家は大阪の衛星都市である寝屋川市の端っこに位置する川に面した片田舎だったが、それでも今は堤だったところに水害防止のためのコンクリート塀が施され、新興住宅も進出してすっかり景色は変わってしまっている。
魚釣りをした川岸も、キリギリスを捕った土手も草むらもない。
そんなこともあって僕は故郷に郷愁と言うものが湧いてこないのだが、この映画の舞台はまりあでなくても郷愁を感じるであろう土地柄である。
人との交わり、街の雰囲気、それらを包み込む風景がたまらない。
恭一が言うように、こんなところに住んでみたいと思わせる映像がこの作品を支えている一要因となっている。

恭一とまりあが寝込んでいるつぐみを訪ねてくる場面で、二人の姿が鏡に映り込むショットはしびれるものがあり、その後のつぐみの雲隠れを引き立てている。
つぐみが恭一に後ろから抱き付いている海辺のシーンもなかなかいい。
アップが多いのもこの映画の特徴だ。
普通なら、つぐみは嫌悪される人物だと思うが、姉の陽子と従姉妹のまりあの三人組は仲が良い。
三人娘の関係には心和まされるものがあり、深刻になりそうな内容を明るくしている。
最後に見せる心配顔だったまりあの笑顔と、つぐみの言葉がホッコリさせる。
つぐみは病弱だが強い生命力を持っている。
性格の悪いつぐみは、きっとそのままで生きていけるような気がする。
だとすれば、恭一との関係はその後どうなったのだろうか?
男の僕は牧瀬里穂、中嶋朋子、白島靖代の三人を見ているだけで微笑んでしまい、うっとりとする。