おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ダンサー・イン・ザ・ダーク

2024-01-01 13:14:03 | 映画
映画ファンの皆様、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/7/1は「39 刑法第三十九条」で、以下「山椒大夫」「三度目の殺人」「秋刀魚の味」「シービスケット」「シェーン」「シェルブールの雨傘」「シカゴ」「死刑台のエレベーター」「地獄の黙示録」と続きました。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」 2000年 デンマーク


監督 ラース・フォン・トリアー
出演 ビョーク カトリーヌ・ドヌーヴ
   デヴィッド・モース ピーター・ストーメア
   ジャン=マルク・バール
   ヴラディカ・コスティック

ストーリー
チェコからの移民セルマはシングルマザーで、一人息子のジーンを懸命に育てている。
セルマは先天性の目の病気を患っていた。
それは息子にも遺伝するもので、セルマは何とか手術を受けさせて息子の失明を食い止めようと、その手術代のために、もうほとんど目が見えないのに身を粉にして働いていた。
工場で働くセルマの同僚キャシーはそんなセルマを何かと気にかけ、助けてくれていた。
セルマに想いをよせるジェフの求婚もセルマは断った。
セルマには自らの幸せなどどうでもよく、息子の目を治すことで頭が一杯だった。
セルマは仕事終わりにダンスを習いに行く。
踊っていると嫌な事を忘れられるミュージカルがセルマは大好きだった。
視力はさらに落ちて見えなくなるが、ミュージカルの主役にも抜擢され、ジーンの手術代もあと少しまでに迫っていた。
ある日、仕事を終えたセルマをビルが待っていた。
ビルは警察官で自分の家の隣のトレーラーにセルマを住まわせてあげており、セルマにとっては恩人だった。
親の遺産を受け継いで余裕があるはずのビルが、お金を貸して欲しいと言い出してきたので、疑問に思ったセルマにビルは事情を話し始める。
ビルの妻はかなりの浪費家で遺産を使い果たしてしまっていたのだ。
妻に逃げられたくないビルはそれを言い出せないでいた。
セルマは自らが失明したことを明かし、互いに頑張ろうと励ます。
ビルはそれを聞くと目が見えないセルマを利用し、お金の場所を特定し、セルマのお金を奪ってしまった。
大きな失敗をしてしまい工場をクビになり、ミュージカルを降りてしまったセルマが失意のまま家に帰ると家に隠していたお金が消えていた。
犯人はビルだった。
これまでジーンの手術代のために懸命に貯めていたお金を盗られたセルマは堪らずビルの家に向かう。
ビルの家に着いたセルマに二階にいたビルはなんとセルマに銃を向けていた。
何故そんなことをするのか分からないセルマは悲しくなり泣き出してしまう。
セルマがビルから銃を奪い去ろうとすると一発の銃弾が発砲され、ビルの腹部に命中してしまう。
強盗殺人罪で逮捕されたセルマは頑なにビルの秘密だけは話さなかった。
そんなセルマに銃絞首刑が下されてしまう。
面会にやって来たキャシーは手術代で弁護士を雇うよう勧めるが、セルマは受け入れない。
何よりジーンの手術が大事だったのだ。
そして執行の日、一歩ずつ絞首台へ歩を進めるセルマにキャシーはメガネを渡し、ジーンの手術が成功したことを告げた。
思い残すことのないセルマは妄想の中で幸せそうに歌い、踊るが、その途中で無情にも刑は執行されてしまうのだった。
そこには静けさとやりきれなさだけが残されていた。


寸評
セルマは目が不自由だがミュージカルの主役に抜擢されており、ミュージカルは「サウンド・オブ・ミュージック」である。
ミュージカル・ナンバーの一部が何曲か歌われるが、それらはジュリー・アンドリュスの「サウンド・オブ・ミュージュック」を見た者なら耳に馴染みのあるものである。
オリジナル・ナンバーも披露されるがミュージカル特有の楽しいものではない。
唄い踊っても場面が喜びに満ちたものではなく悲しい場面なのだ。
兎に角、話が暗くて辛い。
セルマは息子の手術代の為に必死に働いており、昼は工場で働き、夜は内職を人一倍こなし、夜勤も申し出るといった具合である。
そこまでのことはなかったが、僕の母親もシングルマザーで一人息子である僕の為に内職を含めて必死で働いていた。
セルマの姿は僕の母親を見る思いであった。
セル間はついに失明してしまい、職も失ってしまう。
ここで事件が起きるが悪いのはビルで、更に悪いのはビルの妻のリンダである。
リンダは悪妻だったのだと思う。
別れられない悪妻を持った男の悲劇でもある。
いや、やはり妻に本当のことを言えなかったビルが一番悪いな。
最後の最後まで保身に走っている男で、妻に頭が上がらない恐妻家だったのだろう。
幸いだったのはキャシーと言う理解者がおり、ジェフという自分を愛してくれている男性がいたことだ。
キャシーはセルマを思うあまり、ジーンの手術代を弁護士費用に回すよう進言するが、セルマはかたくなに拒み死刑台に向かう。
セルマは処刑前に最後から2番目の歌だと熱唱する。
途中で、ミュージカル映画を見に行った時には最後から2番目の歌の所で劇場を出ると言っている。
そうすれば映画はまだまだ続くからだと述べている。
セルマにとっては、自分は処刑されるが自分の人生はまだまだ続き、ジェフと共にあると言うことなのだろうが、そんな希望を感じさせないラストシーンである。
ミュージカル映画は楽しいものだが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はちっとも楽しくなく、むしろ気が重くなってくる悲しい映画である。
これをミュージカルのジャンルに入れるなら、その中では特異な一編となっている。