おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

小さな巨人

2024-01-03 10:37:25 | 映画
「小さな巨人」 1970年 アメリカ


監督 アーサー・ペン
出演 ダスティン・ホフマン フェイ・ダナウェイ
   マーティン・バルサム リチャード・マリガン
   ジェフ・コーリイ チーフ・ダン・ジョージ
   ケリー・ジーン・ピータース

ストーリー
ロサンゼルス在郷軍人病院の1室で、今年121 歳という老人ジャック・クラブ(ダスティン・ホフマン)は、歴史学者のインタビューに答えて、追憶の糸をたどりつつ、驚くべき事実を語り始めた。
1859年、南北戦争直前、当時10歳の少年だったジャックはシャイアン・インディアンに両親を殺され、姉のキャロライン(キャロル・アンドロスキー)と孤児になったところを、シャイアン族のひとり、“見える影”(ルーベン・モレノ)に見つけ出され、集落へ連行された。
老酋長“オールド・ロッジ・スキンズ”(チーフ・ダン・ジョージ)は2人を快く迎え入れたが、強姦されると思った男まさりのキャロラインは夜、馬を盗んで脱走し、ジャックは1人集落にとり残された。
14歳のとき、クロー・インディアンと戦い、仲間である“若い熊”(カル・ベリーニ)の危ないところを救った。
そこで老酋長は彼に“小さな巨人(リトル・ビッグ・マン)”という名誉ある名を与えた。
16歳を迎えたジャックは、初めて騎兵隊と戦闘を交え、兵士のひとりに殺されかけて、思わず「ジョージ・ワシントン!」と初代大統領の名を叫び、あっけにとられたその兵士に、ジャックは白い肌を見せた。
こうしてジャックは白人社会に戻ることとなり、ペンドレーク牧師に引きとられた。
夫人(フェイ・ダナウェイ)は若くて、聖女のように美しかったがその実、ジャックに淫らな妄想を抱いていた。
9年後、25歳になったジャックは、イカサマ商人メリウェザー(マーティン・バルサム)と組んで西部を行商していたところ、ある夜、2人は暴漢一味に襲われ、その首領が15年前に生き別れたままの姉キャロラインと知る。
キャロラインは、いまや名うての拳銃使いになっていた。
ジャックは彼女から早撃ちの極意を授かり、相当な腕前となっていった。
しかし、拳銃稼業の非情さを知り、ジャックは商人に戻ったのだが、彼の波乱の人生はまだまだ続いた…。


寸評
ダスティン・ホフマンの老人メイクに驚かされる。
映画はこの老人が回顧談を語るという形式で進むが、その人生は白人社会と先住民社会を行ったり来たりの連続で、これが実話ならホントかなと思ってしまう奇跡の連続だ。
その間に、自然を愛し、平和に暮らす先住民が、入り込んできた白人たちによって虐殺される姿が語られる。
発端は先住民のある部族によってジャック一家が襲われたことによるが、その後はシャイアン族長老に代表される先住民が善で、カスター将軍に代表される白人が悪という構図で描かれている。
白人社会は堕落した社会という印象だ。
信仰の大切さと誘惑の拒絶を訴えるベンドレーク牧師夫人が、実は愛欲におぼれていて、出かけた街の店主とも出来ているといった具合だし、ペテン師やガンマン、強盗団がはびこっている社会として描かれている。
先住民は勇気を示す戦いとして、相手を殴ることでそれを示すが、白人社会の権力の象徴である騎兵隊は殺戮することでその力を誇示する。
カスター将軍はジェノサイト、あるいはホロコーストと呼ばれる民族抹殺を願っている。

改めてこの作品を見ると、そのご都合主義的なストーリー展開に陳腐さを感じてしまうが、制作された当時はベトナム戦争の真っ最中であり、どうしてもベトナム戦争をオーバーラップせざるを得ない時代であった。
これは同年代に制作されたラルフ・ネルソンの「ソルジャー・ブルー」にも共通していて、正義の味方の騎兵隊が、実は暴虐の集団であった事を告発している。
置き換えると先住民はベトナムを、騎兵隊は米軍そのものを思わせる。
したがって、ベトナム戦争を知らない世代の人には、この映画は薄っぺらな作品に見えてしまうのではないか。
本格西部劇(?)をたくさん見てきた者にとっては、登場する第七騎兵隊のカスター将軍も、ワイルド・ビル・ヒコックも馴染み深い名前ではあるが、やはりこの作品は変わりつつあった西部劇の先鞭をつけた作品の一つである。

ここで描かれるカスター将軍は、先住民を抹殺して名声を得た後に大統領になる野望を持った男として描かれていて、同じ将軍から大統領になった18代大統領のグラントを批判させている。
ここでのカスター将軍は面白いキャラクターとして描かれていて、一方で紳士的、一方で狂人的な人物で、演じたリチャード・マリガンは中々いい味を出していた。
ベンドレーク夫人のフェイ・ダナウェイの再登場の仕方には驚いてしまう。
てっきりワシントンの政治家夫人となって再々登場するかと思ったが、さすがにそれはなかった。
ワイルド・ビル・ヒコックは無宿者に背後から撃たれて殺されたらしいが、ここでは少年に撃たれていて、最後の言葉が可笑しい。

アーサー・ペンは僕が洋画を見始めて初めて衝撃を受けた監督だ。
マーロン・ブランド、ジェーン・フォンダ、ロバート・レッドフォードが出演した「逃亡地帯」である。
やがて「俺たちに明日はない」を発表し、僕の中では彼の名前が不動のものとなった。
だけど僕の学生時代の終了と共に、この「小さな巨人」と共に、その名前がしぼむように消えて行ってしまったのは寂しかった。