おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

バード

2024-01-28 07:23:20 | 映画
「は」行になりますが、先ずは「は」から。

「バード」 1988年 アメリカ


監督 クリント・イーストウッド
出演 フォレスト・ウィテカー ダイアン・ヴェノーラ
   マイケル・ゼルニカー  サミュエル・E・ライト
   キース・デヴィッド   マイケル・マクガイア
   ジェームズ・ハンディ  デイモン・ウィッテカー

ストーリー
1954年9月1日、自殺を図り精神病院に収容されたバードの脳裏に、18年前、16歳の時の故郷カンサス・シティでの記憶、ヘロイン中毒死した父の遺体、そしてレノ・クラブでのコンテストでシンバルを投げられた屈辱が蘇る。
それから8年後の43年、ニューヨークの52番街のクラブで<ビ・バップ>を創始して成功を収めつつあるバードの演奏に、観客は熱狂している。
その頃彼はダンサーのチャンと出会い、バードの音楽にはひかれてもプロボーズには応じない彼女に、サックスを質に入れ白馬を借りて、仲間の演奏をバックに颯爽とチャンを迎え、これによって彼女のハートを射止めた。
やがて彼らは西部に進出するが、そこではビ・バップは侵略者扱いされ、バードは酒浸りとなり入院、そんな彼が再びニューヨークで仕事に戻れたのはチャンの奔走のおかげだった。
49年はバードにとって飛躍の年となった。
パリでのコンサート、「バードランド」の開店、白人トランペッター、レッド・ロドニーを仲間に引き入れた南部の演奏旅行で成功を収めるが、レッドが麻薬捜査官に逮捕され、ニューヨークで仕事がしにくくなりロスに旅立った頃から、バードに影が差し始める。
娘ブリーの死、そして半年後には自殺未遂を企てた。


寸評
ジャズは僕が好きな音楽のジャンルの一つであるが、モダン・ジャズの父とも呼ばれるチャーリー・パーカーのことは全く知らない。
これはそのチャーリー・パーカーの伝記映画だが、出演者も内容も地味でチャーリー・パーカーを知らない僕はあまり楽しめなかった。
クリント・イーストウッドが音楽に造詣が深く、特にジャズが好きなのだろうなと言うのは感じられたが僕は作品に乗り切れなかった。
それでも演奏シーンだけは満足できるもので、夜のムードの中で映し出されていくライブハウスの雰囲気に酔いしれ、流れるジャズの調べを聞いているだけで楽しくなってくるのは音楽の持つ力だ。
それもそのはずで、演奏場面はチャーリー・パーカーのオリジナル音源からパーカーのサックス演奏だけを抜き出し、当時の若手ジャズ・ミューシャンによる演奏と合成したものを使用しているらしい。
チャーリー・パーカーの生き方は滅茶苦茶だ。
音楽で成功した人というより、麻薬とアルコールに依存して健康を損ない、幾度も精神病院に入院するなど破滅的な生涯を送った人という印象である。
それらを克服してモダン・ジャズというジャンルを確立した偉人物語ではなく、事実もそうだったのだろうが、才能が有りながら薬物で身を滅ぼして亡くなった人物を描いているようで気が滅入ってしまう。
カンザスシティで過ごした少年時代、チャン・リチャードソンとの結婚、麻薬使用による警察の追及、精神病による入院生活、人気を博す演奏場面などが入り乱れるように描くとによって、チャーリー・パーカーの人物像を浮かび上がらせようとしているようだ。
自分の楽器を質に入れ、その金で白馬を借りてチャンにプロポーズするような楽しい場面もあるのだが、全体としてはそのエピソードも覆いつくしてしまうほど暗く感じる。

音楽は時代と共に変化している。
我が国においても、もてはやされる音楽はその時々によって違っていて、そのたびに新しい呼び名で呼ばれる音楽が流行してきている。
僕が物心ついてからでも、ロカビリーなるものが熱狂的に支持されたことがあったと思えば、グループ・サウンズというものが大流行した時期もあったし、それに飽きたのか次はフォークソング・ブームがやってきた。
ニュー・ミュージックと呼ばれる音楽も誕生した。
世相や人々の暮らしが、当時の若者たちが目指す音楽に大いに影響を与えてきたのだろう。
アメリカにおいては黒人たちが愛する音楽が歴史を生み出してきたのだろうなと感じた。
彼らの持つ感性が新たな音楽を生み出していったのかもしれない。
チャーリー・パーカーは偉大な演奏家だったのかもしれないが、後半で描かれていたのはやがて台頭してくるロックン・ロールだった。
チャーリー・パーカーにはその音楽が理解できなかったのではないかと思う。
後年、秀作を連発するイーストウッドだが、「バード」はまだその域に達していないように感じる。
映画作りの本数をこなしたせいか、歳をとってからの方がいい作品を撮るようになった。
2000年代に入るといい作品ばかりである。