おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

2024-01-18 07:17:34 | 映画
「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 2015年 アメリカ


監督 ジェイ・ローチ
出演 ブライアン・クランストン アドウェール・アキノエ=アグバエ
   ルイス・C・K デヴィッド・ジェームズ・エリオット
   エル・ファニング ジョン・グッドマン ダイアン・レイン
   マイケル・スタールバーグ アラン・テュディック

ストーリー
第二次世界大戦が終結し、米ソ冷戦体制が始まるとともに、アメリカでは赤狩りが猛威をふるう。
共産主義的思想は徹底的に排除され、その糾弾の矛先はハリウッドにも向けられる。
ダルトン・トランボはアメリカ共産党員として積極的に活動していることから、コラムニストのヘッダ・ホッパーや俳優のジョン・ウェインなどのエンターテイメント業界における強硬な反ソ連の人物から軽蔑されている。
トランボは、ハリウッド映画における共産主義のプロパガンダに関して下院非米活動委員会(HUAC)で証言するよう召喚された10人の脚本家のうちの1人となった。
トランボたちの行動を支持するトランボの友人で俳優のエドワード・G・ロビンソンは、彼らの弁護士費用調達のためにゴッホの絵画を売却して手助けした。
しかし、リベラル派の判事二人が予期せぬ死去をしたことで、トランボの上訴する計画は叶わぬこととなり、1950年議会侮辱罪で収監されて最愛の家族とも離ればなれとなってしまう。
1年後、ようやく出所したトランボだったが、「ハリウッド・ブラックリスト」の対象が拡大し、トランボとその仲間たちは彼らとの繋がりを否認するロビンソンとプロデューサーのバディ・ロスによって見捨てられる。
彼は友人のイアン・マクレラン・ハンターに『ローマの休日』の脚本を渡し、ハンターが脚本の名義と報酬の一部を得るという手段をとる。
のどかな湖畔の家を売り、都会の家に引っ越した彼は、低予算のキング・ブラザーズ・プロダクションでペンネームを使った上で脚本家として働き、ブラックリストに載っている仲間の作家たちにB級映画の脚本執筆の仕事を回してやる。
彼が妻のクレオと10代の子供たちに仕事を手伝わせたことで家庭内不和が大きくなった。


寸評
僕はダルトン・トランボが係わった作品として「ローマの休日」、「ガンヒルの決斗」、「スパルタカス」、「栄光への脱出」、「いそしぎ」、「フィクサー」、「パピヨン」、監督作品として「ジョニーは戦場へ行った」を見ている。
半数にも満たないのだが、それらを見たころは主演が誰かと言うことが興味の第一であって、かろうじて監督が気になったこともあったぐらいで、洋画における脚本家を気にとめていなかった。
後年になって「ローマの休日」のゴーストライターがダルトン・トランボであった事を知った。
そして本作によって「スパルタカス」や「栄光への脱出」に、あのようなエピソードがあったのかと知識を得た。
「スパルタカス」のカーク・ダグラスがカッコいいところを独り占めしているのだが、演じた ディーン・オゴーマンの風貌は本物のカーク・ダグラスに似ていたなあ。
オットー・プレミンジャーが、いい場面ばかりだと映画はかえってつまらないと言うトランボに、「いい場面ばかりを書け、後は私がメリハリをつける」と語る場面も面白く思えた。

この映画におけるダルトン・トランボは迫害に屈することなく己の信念を貫いたヒーローとしては描かれていない。
カッコいいところはカーク・ダグラスに任せていて、彼自身は仕事に追われて家庭崩壊を起こしかねないダメ親父の側面を見せている。
彼を支えているのは寡黙な妻のクレオで、演じたダイアン・レインがなかなかいい雰囲気を出していて、寡黙だった彼女が唯一大声を上げる場面が活きている。
ダルトン・トランボが自分の作品を妻のクレオや娘のニコラと劇場で見ているシーンが何回か出てくるが、大変な環境下にあって幸せな時間であったろうと思わせる。
本当にそのような時間が彼らにあったのなら、少しは良かったかなと感じさせた。
刑務所で裏切り者のニュースを見た凶悪犯が「あんなチクリはここなら死体で出ていく」と言うのも面白いセリフで、凶悪犯によって裏切りにあった者たちの気持ちを代弁させていたと思う。

冒頭近くで述べられる「アメリカの好物は金とセックスだ」というセリフを伏線にして、フランク・キングに字も読めない観客いわゆるブルーカラーを相手にしたようなキワモノ映画を提供するために、トランボはブラックリスト仲間の脚本家たちとシナリオを書きながらタフに食いつないでゆく。
共産主義者として干されているはずのトランボが食いつないで行けたのは、資本主義社会のアメリカであったからであることが皮肉めいていて面白い。
フランク・キングは反共映画団体の男がオフィスへやって来て、ジョン・ウェインやロナルド・レーガンの名を語りながらダルトン・トランボの起用をやめなければスタア俳優の出演をボイコットさせると言われるのだが、彼は手近にあったバットを振り回しながら「われわれの映画は所詮クズだから、俳優は素人でいい。どこかに書きたてようが、われわれの映画の観客は字が読めないから大丈夫だ」と怒鳴りつけて男を追い払う。
本作で最も痛快な場面で、高圧的なメジャーの威力には猛然と反骨をもってのぞむ彼に思わず拍手したくなる。
悪役となっているゴシップコラムニストのヘッダ・ホッパーも、実は背後に若き日からの積年のスタジオ・システムへの怨念があるらしいことが匂わされているから、メジャーに反感を持っていた人たちもいたという事だろう。
ニュース映像を挟みながら伝記映画としてのリアリティを出しているが、映画関係者の伝記映画なので映画の一ファンとして楽しめる作品となっていた。