かつては汽水域であった綾里川の河口は、地震による地盤沈下で、常時この橋のあたりまで海水が流れ込んでいます。
水面を遊泳していたカモの集団が、人の気配に一斉に羽ばたき西の空に飛びたっていきました。この水辺には、冬の渡り鳥以外にもカモメやウミネコなどもたくさん居り、さながら鳥の楽園になっています。
オオバンのつがいは、さざ波に身をまかせゆったりと泳いでいます。
河口近くのこの辺りは、かつては綾里川の清流で水底まで見渡せ、藻や小魚・貝などの姿が見えていましたが、今は海水が入り込み、濁って川底は見えなくなっています。
でも、少し遡っていくと、川はすぐに浅くなり、サケの姿があちこちに見られます。
産卵のために川を上ってきたサケは、このすぐ上流の「やな」を越えられずとも、ペアになろうと水しぶきをあげて活発に活動しています。この川の中をよく見ると砂利に混じって、レンガや陶器のかけらなど津波の痕跡があちこちに残されています。
河口から500mの付近です。川を挟んで右手が綾里小学校です。
川の土手の道路は、通学路と言うこともあり左岸のガードレールは新しくしたものの右岸のガードレールは津波で壊れたままです。
綾里川に架かる橋の欄干も応急橋です。通学時は毎日、スクールガードのボランティアの方々が児童の安全を見守っています。
この橋の袂に眼を移すと、いたるところでサケが産卵の場所を目指して遡上している姿や、一生を終えたサケの姿が見られます。
あの険しい「やな」を乗り越えて、真水を求めて産卵に向かうサケや、越えたものの産卵場所に行きつく前に一生を終えもの、産卵して務めを終えたサケの死骸などがいたるところにありました。川中の死骸(腐食が進みさけの形も崩れてきています)はまだいいのですが、川岸に打ち上げられた屍は腐食臭が漂いカラスが群がっていました。
たまたま、「やな」の点検に来られた方にお話を聞くことができました。
「綾里川に横たわるたくさのサケの死骸は、悪臭がして衛生上もよくないし何とかならないんでしょうかね?」と尋ねると、「サケの死骸を小さなプランクトンが食べ、そのプランクトンをサケの稚魚が食べて成長するというように、死骸はごみではなく循環をしているんです」と、子ども(稚魚)の顔を見ることなく産卵後に命を閉じるサケは、屍を卵からかえった稚魚の餌として残していく命の循環のための大切な役割を果たしているということでした。
今年は簡素な「やな」で、サケの採卵をして細々と養殖に取り組むが、川の水量も少なく、養殖施設の復旧もままならず、あと数年で養殖業はやめる予定ということでした。自然の川に戻される喜びと震災被害による養殖業の廃止、なんとも複雑な心境でした。