わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

ジャベールを育てるのはファン

2005年05月01日 | 観劇記
これから書く文章を読んで下さる方がいらっしゃるとしたら、どうぞ二つのことを心の隅に置いて読み進めて下さい。
一つは、ここは公序良俗に反しない限り、私が自分の考えを自由に書く場であるということ。
もう一つは、正直言って苦手な(嫌い、とも言う)俳優のことは、書かないことにしているということ。つまり、ここに書くと言うことは、とても気になる、好きなだけにちょっといじめたくなる(すっかりおばさん、苦笑)、という点です。

昨日のブログに「レ・ミゼラブル」の登場人物のうち一番好きなのが「アンジョラス」と言いましたが、対極にあるのが「ジャベール」。原作を読んだときから、ずっとそう思っていたので、舞台を観るときもそれを引き摺ってしまうようです。

いろいろな方が演じるジャベールに出会ってきました。全員思い出せないというのもあるけれど、ちょっと今回のジャベ役の皆様にはいろいろ思い入れがあるので、3人の方のジャベについて語りたいと思います。

鈴木綜馬さん。今回は観劇していませんが、00-01年バージョンで拝見しています。
鈴木さんと言えば、二枚目をなさるために生まれていらっしゃったような方です。「エリザベート」のフランツ様を拝見し、私がシシィだったら絶対傍を離れたりしないのに!と何度思ったことでしょう。しかし、もっと印象に残っているのは「チャーリー・ガール」の放蕩息子役。確かに二枚目と言えなくもないけれど、あまりのキザさに呆れ果ててしまうのです。でもね、それがまた素敵で、笑えるし、こんな鈴木さんもいいなぁ。
しかし、ジャベールについては、ほとんど思い出せないのです。歌はうまいなぁと思って聴いていた記憶がかすかに・・・。

岡幸二郎さん。本舞台ではないので、こんなにいろいろ言うのは失礼かと思いつつも書いてしまいます。岡ジャベは04年12月千葉のコンサートで出会いました。すばらしい声量。しかし・・・
岡さんの舞台もいろいろ観ています。「キャンディード」のマキシミリアンで「美しすぎて」と手鏡を見る姿。大笑いでしたが、その気品と美しさゆえ妙に納得してしまいました(笑)。岡さんの舞台を拝見していると、とても幸せな気分になれます。それは岡さんが舞台の上でとても楽しんでいらっしゃることが私にストレートに伝わってくるからだと思います。作品として好きではなかった「クリスマス・ボックス」も岡さんのおかげで心の片隅にいい思い出として残っています。
しかし、ジャベールの歌はちょっと方向性が違うのでは、と感じざるを得ませんでした。

今拓哉さん。今回も、また03年は2回拝見しています。
今さんと言えば、しつこいようですが、アンジョルラス。劇場で号泣するなんて、恥ずかしいのはわかっているんです。でも、とどめなく涙が溢れましたね。今アンジョとなら、戦い敗れても、ともに死を選ぼう、とまで思いましたから。
今さんの出演作品を最近分は殆ど観ていると思いますが、どうしてもアンジョルラスが忘れられません。それもいけないのでしょう。しかし、ある面では今さん自身も「レ・ミッズ」を知り尽くされているわけですから、どんなジャベールを作り上げて下さるのかとても楽しみだったのです。
歌に関しては、ちょっとあとでまとめて話したいと思います。
今さんのジャベも私が知る限り、とても素敵です。しかし、素敵過ぎるんです。
警棒のさばき方が美し過ぎる。あまりに颯爽としている。などなど。
もっと、重々しい、嫌われるジャベールであって欲しいのです。

ついつい、今さんのジャベに深入りしてしまいました(苦笑)。
とにもかくにもこの3人の方たちは、二枚目を演じるのが似合っているし、鈴木さん、岡さんは線が細いです。そして何より、歌の音域がハイ・バリトンからテノールあたりなのです。

原作「レ・ミゼラブル」の中で、ジャン・バルジャンとジャベールはいろいろな点が対比として描かれています。それがミュージカルになったときにも、いろいろなところで伺われます。その大きな点が、バルジャンはテノールで歌われ、ジャベールはバリトンで歌われることです。
今アンジョにはまっていたときには、ミュージカル作品の流れを楽しむ域に達していなかったのですが、コンサートを含め何度かの観劇で冷静に全体の流れを感じ取るようになりました。楽曲の流れ、演出をいろいろ分析するとあまりの緻密さに、やられた!という思いが押し寄せ来ます。
そして、かなり乱暴な言い方になりますが、舞台の流れからして、プリンシパルにはとにかく「歌の力」が要求され、アンサンブルには「演技力」が要求されていると感じます。
すごく複雑に歌い継がれていくのに、バルジャンには3曲とジャベールには2曲のソロ曲があります。(他のプリンシパルは1曲です。)そして、さらに興味深いのは、このソロ曲のうち1曲はメロディが一緒です。バルジャンの「脱出」とジャベールの「自殺」です。
この曲をどう歌うか、歌い合う「対決」をどう歌うかで、ジャベールの印象は全然違ってくるような気がします。

印象の薄いジャベール(アンジョに全神経を注ぎすぎているのかもしれませんが)の存在を一転させ、ジャベールのありようを私に教えて下さったのは、04年夏のコンサートで佐山陽規さんのジャベールでした。
佐山さんはバリトンですから、ジャベールの歌のすべてを強く歌って下さいました。
これに対し、岡さんは意外なアプローチをします。「自殺」の旋律をバルジャンと同じようにオクターブ上で歌うのです。素晴らしい歌であることはわかります。しかし、ジャベールという役柄を考えると、ちょっと違うのではないかと思ってしまうのです。
今さんの歌声のすばらしさは十分知っています。しかし、ジャベールの歌を歌うときにはどうしても弱くなってしまう感じがします。
音階は一オクターブを12個に人為的に分けています。だから一音にもかなりの幅があります。佐山さんの歌は、音符の真ん中をバーンと打ち抜いていく感じがします。今さんもアンジョルラスの時にはそんな感じでした。が、ジャベールでは、音符の上っ面をなでているような感じです。鈴木さんも岡さんもハイ・バリトンなのでその傾向が強いように感じました。
音符の真ん中を打ち抜くと、「スターズ」の自分の進む道の正しさ、「自殺」の入りの「俺は法律なめるな」の歌詞の重さなど、ジャベールが大切にしていることがとても強く伝わってくるのです。それに私が共感できるかどうかは別としても、ジャベールの考え方はわかります。
しかし、音符の上をなでてしまうと、歌い手自身がジャベールの考えから逃げているような印象を受けてしまうのです。ますます、ジャベールを否定したくなる気持ちを私に与えてしまうようようでした。

目を閉じて、今さんのジャベールを思い出そうとすると、演技している姿しか浮かんでこないのです。歌声が聞こえてきません。
佐山さんは歌声がどんどん聞こえてきます。演技は印象が・・・あっ、観たのはコンサートでしたね(笑)。

出来ることなら、佐山さんにもまた本舞台をやって頂きたいのですが、新たな人材を見つけ出したいなぁとも思うのです。で、いろいろ思い浮かべてみるわけです。
ホニァ、クニャ、アレ、コレ、ニャニャ、ゴニャ・・・・
思い浮かばない!!!
なぜか?????
私が気になる俳優さんを全部思い浮かべて、わかりました。皆さん、ハイ・バリトンかテノール。そう、やや高めの甘い歌声が私は好きなんですよね。
でも、それは私に限った事ではないのではとも思います。オペラでは、テノールが二枚目、バリトンは悪役ということが多いので、ミュージカルにもその影響は大ですし、それが人間の耳の理にかなっているのかもしれません。まして、ミュージカルの場合、演技にも重きが置かれますから、ハイ・バリトンぐらいの方たちが演技で悪役を担当することが出来ます。それはそれでミュージカルの楽しみではあるのですが。
しかし、二枚目も三枚目や悪役がいてこそ引き立つわけです。演技で魅せるのも良いですが、やはり歌でもっともっと魅せて欲しいのです。ミュージカルのファンとしてバリトンの素晴らしい俳優さんに注目していかないと、この素晴らしい「レ・ミゼラブル」という作品も、何となくピリっとしない舞台が続いていってしまうような気がしています。

実は、密かに、小鈴さんはジャベールも似合うかなと思っています。しかし、歌については厳しいことを言うようですが、もっともっと身体全体で歌えるようにならないと、ジャベールの歌は歌いこなせないと思います。

いつか、ジャベールに惚れ込んで「レ・ミゼラブル」に通い詰める日を夢見て、まなざしは甘く優しく、口調はピリ辛で語ってしまいました。

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