暇つぶし日記

思いつくままに記してみよう

酸っぱい肉(Zuurvlees)

2011年09月15日 03時06分34秒 | 喰う


オランダ人でも若い人には知る人が少ないけれど年配になるとそれぞれの郷土料理のようなものは皆一応心得ているだろうから、この名前を言われてみると、ああ、あれか、という人が多いだろう。 リンブルグ州ではフラーイというお菓子のパイ、食い物ではこれ、というそんな喰いものを作ってみた。 けれどそのちゃんとしたレシピーをあとで知るに及んで自分の作ったものは Zuurvlees もどき、だったことに気付いた。 それはともかく、そのインスピレーションになったのは先週の週末3日ほど例年のようにオランダ南部リンブルグ州の州都マーストリヒトにいて再度昼食に喰った、という思いがあったころに由来している。
 
リンブルグにいくと、とりあえずビールに Zuurvlees だ、と皆は言う。 直訳すると「酸っぱい肉」なのだがそんなことはない。 ポテトチップスというかフレンチフライというか揚げたジャガイモと独特のハーブでよく煮込まれた肉の組み合わせ、とでも一応言っておけばそれがどんなものか一応の説明にはなるだろうけれど、グーグルでその画像を拾ってみてそのバリエーションに驚いた。
 
http://www.google.nl/search?q=zuurvlees&hl=nl&prmd=ivns&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=vwpqTpWQOMmcOpKy0MsF&ved=0CFYQsAQ&biw=1224&bih=952

写真の中にはパスタか白米かというような組み合わせまであり、赤い鍋、食器皿まで我が家と同じものがあって驚くのだが、概ねはどろどろの濃い茶色、高い粘着質をもった濃いソース、ハヤシライスでライスの上にかけるようなもの、ではそれはハヤシなのかともみえるものだろう。 ハヤシライスをここに出したのは偶然ではない。 こちらで hachee (ハシェー)という料理があり、これが概ねハヤシライスに対応するものだ。 フランス語、オランダ語、英語のそれぞれ hache, hak, hush なのだろうがいずれも意味はここでは ぶつ切り、ということだし音韻対応もあるのだから同じものだということがいえるだろう。 だから マーストリヒトの Zuurvlees はハヤシライスと親戚いとこの関係にあるとは言え、ハヤシさんの方の名前は肉がどのように処理されたという様態からだがこちらの方はぶつ切り処理ではなく調理法の味付け方とその名残の味からである、ということころが面白い。

ちなみにオランダでハシェーという料理の画像は次のとおり

http://www.google.nl/search?q=hachee&hl=nl&biw=1224&bih=952&prmd=ivns&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=AoJuTrfMGMzn-gaHqZDUBA&sqi=2&ved=0CHwQsAQ

ライスの上にかける、ということもなくはないようだが、東洋の島国で明治以後ひろがったのとは違ってこの何世紀かのごった煮を思わすように、殆んどが茹でたジャガイモに添えるという形にもなっているし、そんなヨーロッパでは至って普通のポピュラーな料理でもあるので、箱や袋に入った出来合いのミックスパウダーも普通にスーパーに売られていてそれらの写真もここに見え、そのうちのいくつかは使った記憶がある。 だから、同じようなものだから同じように、、、、と500グラムの牛肉の塊を買っておいたものをハヤシさんと同じように厚鍋で煮込み始め、3時間もあれば充分でその後1時間ほどゆっくり冷ましてから食事のときに温めれば出来上がり,と高を括っていたのが間違いだった。

レシピーに曰く、馬肉や硬い牛肉を一晩酢に浸したものをバターで炒め充分な玉葱も加えそれにビールを注いで何時間か弱火でことこと煮る。 そしてその後そのまま翌日まで置いておく、と書いてある。 なんと時間のかかるものだろうか。 あしかけ3日ではないか。

そこで自分の煮たものを思い返してみるとハーブには庭からもぎ取ってきたセージやタイムなどに加えたのだがベイリーブ、すなわち月桂樹の葉なのだがそれは休みの間に枯れてしまっていたので入れていなかったものの、マーストリヒトの小さな鍋から出てきた12個のクローブを思い出しそれを棚の中に探したのだが生憎その粉しかなく仕方がないからそれを適当に振りかけたのだがどうも丸い頭と枯れ木のミニチュアのような本モノとの様子が分からず同じ牛肉500グラムを使ったカレーを煮込むときには3つ4つでいいのだからマーストリヒトの聖母教会の前の広場に面するカフェーの Zuurvlees の小鍋から出来てきた12,3個のクローブもその分では付け焼刃のでっち上げ料理だったのかとも思い、香りの程度を鼻で確かめながら鍋を掻き混ぜた。

考えてみるとクローブは嘗てヨーロッパが東洋に香辛料を求めて船出して大航海時代となり、それがヨーロッパの東洋進出につながったようなもので、その交易でヨーロッパの富を築き、経済史上今も影が強く残る植民地支配につながったのではなかったか。 昔、歴史の時間にそのようにして「肉桂、丁子」とならったあのチョウジが今ではクローブと英語で呼び習わされているらしい。

まやかしに酢を落としてみたのだがどうも酸味が単純で仕方がないのでオレンジのマーマレードを落とし、これは前に聞かされていた、オランダで朝食のケーキと呼ばれる生姜やニッキ(シナモン、肉桂)の味が特徴的な硬いカステラというような Ontbijtkoek を細かく千切ってかなり放り込み混ぜれば幾分か先日喰ったものに似た様なものになった。

近くの角のスナック・バーと呼ばれるバーガーやフレンチフライなどの各種揚げ物を売る店まで自転車で走り家人と二人分のものを買って戻りアトリエで次の展覧会を準備している家人にディナー・コールをかけた。 彼女に、テーブルに並んだものをみて、机の上にあった新聞の切り抜きを読んだのね、と言われたから、まあね、と答えておいた。 まさかそんな切り抜きがあることも新聞の料理欄にレシピーが載っていたことも知らなかったので驚いたのだが、さてはテキもこの料理を作ろうと思っていたのかもしれない、先を越してやったとほくそえんだのだが自分の、、、もどきがそれなりの味だったことに少しは気をよくしたのだったが、果たして机の上の切抜きには私が後でネットで調べたとおり馬肉を一晩酢につけて、、、、、と書いてあったのかどうかを疑う。 もしそうだったなら家人も3,4時間で本物が出来ないことに気付いているに違いない。 あの切抜きには家庭用の3,4時間でできるバージョンが載っていたのだろうか。 それもあるとするのは今時あのカフェーでも馬肉ではなく牛肉を圧力鍋で煮込みクローブをどっさり放り込んだ付け焼刃のものだったのだから。

それにしても馬肉を主に売る肉屋がこの町では減った。 2年ほど前にほそぼそとやっていた肉屋がこの10年ぐらいで徐々に貧相になり客も少なく店を閉めてから今ではそこは全国規模の精肉チェーン店になっている。 日本ではどうなのだろうか、帰省した時には家の前のすし屋で娘が旨そうに喰っていたのが馬肉と鯨肉の握りだったのだがそれは別としてシチューのように馬肉を煮込む料理を食わせるところはあるのだろうか。