暇つぶし日記

思いつくままに記してみよう

オランダ地方選挙があった

2010年03月06日 00時32分06秒 | 日常



三月三日はオランダの地方選挙だった。 何年かに一度市会議員が改選されそれに伴って人口11万ほどのわが市でも30数人の市会議員を選ぶのに有権者の55%ほどがそれぞれの地区にある投票所に足を運んだのだった。

その2週間ほど前に、NATO(北大西洋条約機構)からアフガンへ継続的派兵を要請されたことに端を発して、連立政府の公約である11月で全面撤退という決定を破って継続的派兵を主張する連立与党のキリスト教民主党とそれは公約違反だとして協約どうり派兵反対を主張する労働党が連立内閣を解散したことから6月の初旬に国政選挙で国民にそれぞれの信を問うこととなり、今回の地方選挙が国政選挙の結果を占う前哨戦にもなるのではとの観測から今回の選挙活動中それぞれの党にもひときわ力が入っていたのだが国政と地方公共団体の運営も争点も大きく違うことから政策に関しては論点は身近な地方政治一辺倒なのは当然のことだった。

選挙の前夜、我が家の近所にある、子供たちも通った中高一貫校で討論会、ディベートがあり今回も参加した。 正規にこの国に入国し、合法的に労働し、遅滞遺漏なく納税していることからこの国のパスポートを有せず外国人ではあるけれどこの25年ほど永久滞在許可証、いわゆるグリーンカードをもっていることから地方選挙には参政権があり、その権利を機会があるたびに行使している。 毎日、各種メディアでこの国で起こっていることは一応は心得ているから国政の焦点については自分の声を反映できないけれど地方選挙になれば日常住まいする町の事柄については、とくに家の前を走る道路の環状道路化計画、路上駐車の有料化、市内を通って海辺の町まで延長する軽便鉄道の施設計画などに関する各党の意見は場合によっては日常の生活に大きく関わることともなるので、簡単には無視できないこととなる。 半分ほどはこの町だけの政党を含む12の党がそれぞれ各党の主張を持ち寄り参加した150人ほどのわが地区の有権者を前にして質疑応答の2時間半だった。

多くの町や国政の場でも同様、労働党がこの市の第一党でありその第一党の権威を嵩にかけている節も感じられ、ことに家の前を通る道路の環状化にかんしては付近の住民の反対を無視して既成事実のように計画を推し進めようとするところに反発が集まった。 現在の道路計画に対して反対するのは社会党、緑の党とオランダの民主党とでも比べられるD66という党だけで、市会の多数を占めていた労働党がキリスト教民主党、保守党などと共闘し代表的に道路計画を推進しているのだから労働党だけに反発するのは筋違いではあるけれどしかし沿道の住民の意思を無視していることには違いがない。

選挙結果からいうと労働党はこの市議会の第一党の座から第三党にひきずり下ろされ現行計画には反対するD66党が第一党となった。 オランダ全国の市町村でも労働党は辛くも第一党を保っているものの勢力は大きく後退していくつかの都市では大きく伸びてきた極右政党と肩を並べるほどになっている。 「自由党」とは名前がついているもののその実態は極右、外国人特にイスラム教排斥を掲げて都市部の中高年にターゲットを絞ったその党が大きく票を集め、大都市ロッテルダムではこの「自由党」と同様の右派政党も労働党に次ぎ第二党となり経済停滞、財政緊縮の社会状況下の右翼化の現象を現して早速世界のニュースともなり夏の総選挙にも影を落とすことになると観測されている。

幸いなことにオランダの中でも比較的外国人には寛容なわが町にはこのような右傾化した党もなくスラム化する地区もなく討論会では問題はもっぱら環境、財政、インフラ対策に集まり全国規模の政党とこの町だけで組織された政治クラブとでもいうような政党との論の進め方、その素人的な素朴ともいえるようなスピーチの違いが目立った。 前々回から参加している地元の映画館主がリーダーとなり既成の大政党に対する批判にしても一定の共感を得ながらも問題解決の施策に関しては現実的、州、国に目を向けたヴィジョンに欠ける部分もあり、結局は既成政党に票が流れるというきらいもあり有権者の動向、ジレンマをも感じられたようだ。 

オランダは世界には自由な国だ、というようなイメージがありある部分ではそうではあるのだが現実政治では高度にさまざまな保守、伝統、革新の要素が混ざってヨーロッパ内の中小国として現実的問題解決の道を模索しており急激な変化というようなものは見られないのだが、その元となるのは日常的にさまざまな事柄に関する意見交換の場が地域、メディアで比較的保障されていて日常と政治の距離が近いということが急激な乖離を防いでいる、ということだろう。 

この地方選挙で大きく票を伸ばした右翼政党「自由党」の党首が昨年に続いてイギリスの右翼政党と共闘のために今日、自作の反イスラムキャンペーン映画をもって訪英すると報じられている。 前回はその極右思想からイギリス政府からヒースロー空港で入国拒否の処分を受け、その処置に対してEU政府から逆に、イギリス政府に対して思想信条の自由に反する処置でヨーロッパ憲章に違反するとの非難が投げかけられるというような一見倒錯したような事件も記憶に残っている折、今回はどのような報道がなされるのか興味のあるところだ。前回は大きなニュースになりメディアが「煽り」の効果を与えたというようなことから今回の訪英が二度目であるから無視ということになるのかもしれない。 各国に外国人排斥をかかげて過激な政治行動をとる政党はフランス、ベルギー、イギリスなどにみられるけれどそれにこの数年、今まで自由だと言われていたオランダから過激なリーダーが票を集め国政でも無視できないような勢力になりつつあるというのは憂うべきことだ。

いずれにせよわが町の選挙は終わり一応は自宅前の環状道路計画にも再考の可能性が幾分かは出てきたのだが果たして市議会第一党となって決定事項をかえるような力になるのか、それとも政治の魔物に飲まれて労働党と同じ穴の狢になるのか様子を見ていくことだ。 

先週2年ぶりに固定資産の基本評価額が改定されそれに伴って評価額が7%ほど上がった。 家を売るならば歓迎すべきことなのだろうがそこに長く住むとなると税がそれだけ上がるということでうれしくはない。 そのうち隣人たちと話し合ってこれが妥当なのかどうかもし上げ幅が大きすぎるとなると当局に不服の抗告をすることになる。 一方でもし環状道路計画が実施ということとなれば交通量の増加、環境、騒音などの不都合により不動産価格が下落することになり固定資産税の評価もさがる、という観測もあるのだがそれとこれとは話が違う。 たとえ税が下がったとしてもそのときには今までのゆったりした生活環境から劣ったものとなりひどい場合には引越しも考えねばならないようにもなるだろうし、そのときの売却価格の下落というのも老後の生活に影響をあたえることとなるだろう。 これらの観測は20年ほど前にこの家を購入するときに頭にあったのだがこれから10年ぐらいのあいだで現実のものとなるかもしれない。 この道路計画に関してはこの2、3年ほど何回か公聴会に参加しているけれど市の対応に対する周辺住民の意見はきびしいものでこれが今回の選挙結果に間接的にも現れているというのが大方の見方だ。