今年の前川佐美雄賞は本田一弘さんの歌集『磐梯』に決まったそうです。 短歌往来6月号で発表されています。
その前川佐美雄賞の候補として『塔事典』があがっていたことに驚き、しかもいいところまでいっていたことを知ってとても嬉しくて、三枝之さんと加藤治郎さんが押してくださっていたようで、お二人の選考コメントを何度も読み直しました。 三枝さんは先日の勉強会でも話題になっていた『前川佐美雄』(五柳書院)を書いておられて、「短歌史」という視点から『塔事典』を取り上げてくださったことに喜びがじわっと込みあげてきました。
三枝さんは受賞作と同じくらいの行数を使って書いてくださっていて、結社の遺産の継承、『塔事典』の編集方針についてまでとても細やかに述べておられます。
「『塔事典』は歌集でも評論でもないから、賞の対象になりにくい。唯一の可能性は無差別級の前川佐美雄賞だが、選考委員全員がその意義を評価しながらやはり歌集を、そして『磐梯』となった。特別賞を考えてもよかったかもしれない。」
加藤さんもコメントの最初に『塔事典』についてふれてくださり、
「これほど結社の力を発揮した業績はない。毎月の雑誌発行に加えて、この事典を刊行とは驚異だ。」
このあとに事典の項目についても具体的にあげてくださっています。
お二人とも、「結社誌」を毎月出すということ、それに加えてかかった労力を想像し評価する、やはり結社の実務や運営の中心におられる人たちならではだなと思いました。
約3年をかけて誕生した『塔事典』にはたくさんの会員の時間と頭脳と知識と記憶と思いがこもっています。 会員同士の信頼が根底になければ決して完成しなかったことでしょう。 いいものを創ればきっと皆の喜びになる、これからのひとにも役立つものになる、と信じて、最後までやった結果、塔以外の方にも多く読まれ、評価の対象になったことが本当に嬉しいです。
塔の五月号に、こんな歌を見つけました。
・二月号の「塔事典訂正一覧」より十項目の正書き移す 村上和子
(*「正書き移す」の「正」は四角で囲ってあります)
・『塔事典』一字一字とあらたまり刊行ののちも熟成すすむ 同
誤植があると普段の「塔」でもそうですが、とてもがっかりしてしまうのですが、こんなふうに正しく書き直してくれる人がいること、そして「あらたまり」「熟成」という言葉の温かさにちょっと涙ぐんでしまいました。
会員が多くなるとどうしてもいろんな場面でものごとを否定的にとらえてしまいがちになります。 でも、やはり信頼を心の中心に置いてこれからもやっていこうと思った出来事でした。
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