観測にまつわる問題

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鹿害(ろくがい)と対策考

2018-04-06 20:20:23 | 政策関連メモ

野生鳥獣による森林被害(林野庁)

>平成28年度における、シカやクマ等の野生鳥獣による森林被害面積は全国で約7千ヘクタールとなっています。
>このうち、シカによる枝葉の食害や剥皮被害が全体の約8割を占めていて、深刻な状況となっています。

7000ヘクタール(ha)は、東京ドーム約1497.166個分です(tanihenkan.info)

平成28年度 主要な野生鳥獣による森林被害面積(林野庁)を参照すると、約半分の2968haの被害が北海道で起こっています。その内80%以上2402haがシカによるものです(残りはノネズミとノウサギ)。

平成26年度 森林鳥獣被害対策技術高度化実証事業(北海道・東北)報告書(林野庁)を参照すると、被害がもっとも深刻なのは日高ですが、十勝~釧路、知床の被害もかなりのもののようです。地域特性に応じた獣害対策の手引き(北海道立総合研究機構)を参照すると、日高では「広葉樹は約7割、カラマツ類は約半数の調査箇所でエゾシカの食痕が確認されている」とのことです。エゾヤチネズミの被害もそれなりに大きく、対策はとられているようです。

エゾユキウサギ(ウィキペディア)の被害もあるようですが、個体数が減少しているようで、農業が盛んな地域では嫌われる可能性もあるかもしれませんが、場所を定めるなどして保護することは考えられると思います。捕食者である猛禽類などの個体数にも影響を与えるとされますし、あるいは観光に利用できるかもしれません。

エゾユキウサギ(鶴居の仲間/丹頂と釧路湿原の鶴居村を楽しむ会)
エゾユキウサギの足跡(鶴居の仲間/丹頂と釧路湿原の鶴居村を楽しむ会)

釧路湿原野生生物保護センター(環境省)には保全医学をテーマとして活動する獣医療機関である猛禽類医学研究所もあるようです。保全医学に関する専門教育の現状と今後(酪農学園大学学術研究コレクション)を参照すると、現行の過密な獣医学部正規専門課程に組み込むことは不可能とされ、したがって,必然的にこれらは専門職大学院,あるいはそのほかの卒後教育に委ねられることになるようです。専門職大学院としては英国ロンドン大学TheRoyalVeterinaryCollege(以下,RVC)が唯一だそうですが、日本ではどうなんでしょうね。素人考えですが、研究フィールドの近さを考えると、帯広畜産大学か北海道大学あたりにと考えてしまいます。高速も開通していますし、帯広でも千歳との連絡は悪くないんじゃないでしょうか。

北海道の森林・林業(北海道森林整備担い手支援センター)を参照すると、「林種別でみると、人工林が約3割、天然林が約7割を占め、人工林は、トドマツ(52%)、カラマツ(30%)などの針葉樹が中心で、天然林は、エゾマツ、トドマツなどの針葉樹とシナノキ、ミズナラなどの広葉樹が混じり合った「針広混交林」が広がるなどの特徴を持っており、北海道特有の雄大な景観をつくっています」とのこと。トドマツはパルプなんかに使えるようですが、カラマツ〔唐松・落葉松〕(森林・林業学習館)は成長が早いため大量に植えられたものの、用途が無くなってしまい、現在新たに用途が開発されつつある樹種のようです。北海道の林業は輸入材の減少を受けて活発化しつつあり、新規参入者は建設業からの参入が最も多く、若年者の比率も増加しているようです。

日高で鹿が特に増えているのは、馬産地ですから、音に敏感な馬(馬の豆知識 みんなの乗馬)に配慮して狩猟が実行できていないのではないかと考えられます。これの対策は例えば特区を設定して猟銃へのサプレッサー(消音器)装着を認めることが考えられると思います。

十勝や釧路の山奥の鹿害も気になります。この辺は火山も多いですし、人の手が入っていないところがやはり鹿が多いのではないかと思います。雌阿寒岳(ウィキペディア)では、「高山植物の女王」と呼ばれるコマクサの盗掘があったり、採取禁止のマツタケが生えていたりするようです。鹿害対策とあわせてレンジャー部隊を配置することは考えられると思います(人があまりいないようですから、地元の方々の努力では維持できないと考えられます)。また、レジャーによる狩猟の奨励も一案だと思います。

世界遺産の知床の鹿害も気になるところです。知床におけるエゾシカ樹皮食害の現状と地域と連携した森林保護活動の取組み (林野庁/知床森林センター)を見ると、知床半島のエゾシカは絶滅寸前のところから回復したようであり、キッチリ対策を行っていかなければ、どれだけ増加するか分かりません。知床の課題(知床財団)でもエゾシカの食害の問題は指摘されています。知床財団では危険なヒグマ対策(ヒグマに対する私たちの考え方と取り組み)を行っているようですが、鹿の食害対策は研究段階のようです。オオカミの再導入に関して言えば、少なくとも知床では中々難しい感じです(知床に再導入したオオカミを管理できるか 知床博物館研究報告)。

猟師は高齢化が進んでいるようです。若年層の猟師が不足しているのであれば、例えば鹿(やイノシシ)に限った免許を創設することが考えられます(狩猟免許の実際に関して狩猟免許を取得する(狩猟の魅力まるわかりフォーラム)参照)。他の動物は撃ってはいけないのですから、覚えるべきことが少なくなり、免許取得のハードルが下がりますし、間違って狩猟鳥獣と誤認されやすい鳥獣を撃つこともありません。欲が出てくれば、勉強して改めて狩猟免許をとってもいい訳です。狩猟税の減免・廃止や特区を設けて越境を認めることや、処理済のシカの持ち込みの報酬に補助を出すことも考えられると思います(処理法に関して、よくあるご質問(日本ジビエ振興協会)参照)。また、公務員の副業禁止規定で狩猟を外すことも考えられます。自衛官や機動隊員なんかは良い訓練にもなるんじゃないでしょうか。巻狩や鷹狩りは武士が訓練として行ってきました。動く的を実弾で撃つ経験を積む機会にもなるかもしれません。

エゾシカと本州シカ(GIBIER HUNTERS)は味に違いもあるようです。鹿や猪は野生動物ですから、赤身肉でヘルシーさがあり、希少性もあって人気はあるようです(ファン急増中、ヘルシーな「ジビエ料理」にチャレンジ 専門店が続々登場、肉好きが注目する話題の狩猟肉 日経ウーマン 2016年3月3日)。北海道は若手ハンターも増え、シカ肉の流通も増えているとか(若手ハンター10年で3倍 シカ肉流通 拡大に期待 食害防止/ジビエブームも背景(北海道新聞 04/06 20:21)。

北海道を離れますと、中部山地の鹿害も気になります。八ヶ岳の高山帯におけるシカ被害調査報告書(中部森林管理局)を参照すると、高山植物や固有の植物に対する食害もわりと進んでいるようです。日本には昔は鹿の強力な捕食者であるところのオオカミもいましたし、中山間に人がいたり、薪をとるために森林を伐採していたり、現在の環境は未だかつてない新しい状況だと考える必要があると思います。高山帯におけるニホンジカ対策について(中部森林管理局)を見ると、対策では山小屋の協力も必要かもしれません。登山者が出すというのもあるかもしれませんが、ゴミはエサになるでしょうし、高山で肉を食べるなら、そこにいる鹿がもっとも経済的でエコだと思います。一々下界から肉を持ってきたり(ダメではありませんが)、下界と同じものを出したりするのも疑問でしょう。獲れた鹿肉を降ろすのも大変だというのもありますし、きちんと処理しないとスカベンジャーであるところのツキノワグマやキツネ・タヌキが増える可能性もあると思います。

近畿でも四国でも九州でも鹿害が目立つ地域があるようですが、ここでは詳しくは取り上げません。愛媛県でも鹿肉をブランド化しようという取り組みもあるようです(森の息吹/まつのジビエ)。

最後に九州ですが南西諸島の屋久島のヤクシカについて取り上げます。3年間の調査で分かってきたヤクシカの実態。(日本自然保護協会)を参照すると、「増加したシカはスギ人工林よりも自然林、すなわち保護地域に集中していることが分かりました」ということで、環境志向が強まって広葉樹林が増えますと、鹿害は寧ろ増えることが予測されます。環境を守る上で鹿を獲らないという選択肢は存在しないのかもしれません。

日本は縄文時代は鹿やイノシシを良く食べていたようですが(縄文人は、何を食べていたの? 群馬県埋蔵文化財調査事業団)、仏教伝来以降基本的には肉食は禁止されてきたとされます。ただ、諏訪神社が鹿食免を出しており(信州ジビエの魅力(信州ジビエ)、諏訪神社は日本の至るところにあるなど(肉食が禁じられていても、これさえあれば大丈夫【鹿食免】 ヘソで茶をわかす 2015-12-07)、必ずしもこれは守られてはこなかったようです。オオカミと共に人間が鹿を捕食することで生態系のバランスがとれてきたのではないでしょうか?

屋久島には益救神社(ウィキペディア)があったり、律宗であったり、法華宗であったりしたようですが、検索した感じでは鹿食は確認できません。オオカミもいませんし、ヤクシカの増え過ぎの問題に疑問が出てくる訳ですが、考えられるのは①自然に何処かでブレーキがかかるので増え過ぎは有り得ない②実は食べていた/殺していた③他に鹿の増加を防ぐ要因がある、ということになります。

①に関して言えば、鹿は草食の大食漢であり、「固有種を含む多くの植物が、ヤクシカの摂食圧の増加により急速に減少している」との指摘もあります(ヤクシカ増加の下での屋久島の植物:現状・絶滅リスク・保全対策(九州大学)。瀬戸内の無人島に鹿はいて植物を食べ尽くして滅びたという話もないようですが、食物が少なくなってくれば、ヤクシカのように小型化していき自分達を滅ぼすほどは食べないのかもしれません(食料が減れば捕食者の数は減り捕食者の数が減れば食料は増えて均衡します。こうした状況下で食料が少なくて済む小型の個体は生存競争で優位に立ちます)。鹿やヤギといった草食動物の移入は、固有種の絶滅リスクに目を瞑れば、花粉は幾らでも空から飛んでくるということにはなるのかもしれません。いずれにせよ、鹿害は存在しますから、駆除の必要性がないということはないと思いますし、屋久島には大きな環境変動要因であるところの人は(鬼界カルデラの破局噴火以降かもしれませんが)ずっと住んでいますし、これからも住むでしょうから、奥山の原生林はまだしも、人間が手をつけていない自然を想定する必要はないと考えられます。

②に関しては良く分かりませんが、史料や伝承がないだけの可能性もあります。一湊松山遺跡(鹿児島県上野原縄文の森)では、砂層のため食物残滓と考えられるイノシシやシカの獣骨も出土したようです。

③に関して言えば、ヤクザルの存在が気になります(哺乳動物相 YNAC)。「屋久島は、意外なことに大型動物の種類は少なく、「人2万、シカ2万、サル2万」といわれるように、人とシカとサルの島です」ということですから、人間と共にサルファクターを考えないシカ考察がないと考えられます。ヤクシマザル(ウィキペディア)は広葉樹でエサをとっているようであり、ヤクシカと生息地はかぶるようです。西部林道ではヤクザルの増加とヤクシカの増加が同時に見られるようですが、名古屋大学理学部生命理学科集中講義「霊長類の採食生態: 適応と進化」第4回 霊長類が生態系で果たす役割 京都大学霊長類研究所 半谷吾郎を参照すると、「サルが落とした葉を食べるシカ。屋久島の西部海岸ではシカの採食による植生破壊が進んでおり、サルがいなければシカはもっと早い勢いで植生を破壊していくかもしれない」とあります。つまりサルの駆除をすればシカも減るという因果関係があるのかもしれません。冬の鹿の食べ物(DEER INFO-日本で唯一の鹿情報総合サイト)に落ち葉があり、冬は食料が少なく鹿が命を落とす季節です。


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