観測にまつわる問題

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トランプ政権の鉄鋼・アルミに対する追加関税考

2018-03-03 07:50:34 | 政策関連メモ
鉄鋼・アルミ関税への懸念「過剰反応」 米商務長官 「非常に幅広い構想」 すべての国対象と示唆(日経新聞 2018/3/3 6:12)

>ロス氏はインタビューで、自ら1.99ドルで購入したとするスープ缶の実物を持ち出し関税の影響を説明した。缶に占める鉄鋼のコストは2.6セントで、25%の関税をかけても0.6セントの値上がりにとどまると指摘。「0.6セントでいったい誰が困るだろうか」と強調した。3万5000ドルの自動車でも0.5%の値上がりだと試算し「(消費者への影響は)大したことはない」と述べた。

>ロス氏は特定国の特定品に課す反ダンピング(不当廉売)関税など「伝統的な手法では世界的な過剰生産の問題は解決できない」と力説した。第三国を迂回した輸入を抑えるため「(関税を)幅広く課す必要がある」と語り、対象国に例外を設けるべきではないとの考えを示した。

鉄鋼の過剰生産問題と言えば、中国を意識しているんだろうと思います。中国からアメリカの輸出は現在では大したことないようですが、迂回路を通じて輸出していると言います。どの程度過剰か知らないとピンと来ないと思いますが、中国の鉄鋼生産は断トツです。貿易のデータを見ていると、中国が断トツ過ぎて驚くことがたまにあります。


図録

中国は圏外に旅立っていますね。アメリカはかつて断トツでしたが、ジリジリ下がっている感じで、安全保障の観点から懸念を感じるのは理解できます。インドが伸びていることでも明らかなように、現代では鉄鋼は産業構造的には途上国型なのだと推定できます。「鉄鋼 労働集約」で検索すると、1971年の文書ですが、鍵和田暢男(日本製鋼所専務取締役,技術本部長 工博)の鋳鍛鋼雑考というpdfがHitしました。

>特定の大量生産万能な品目を除いては,多種少量生産方式に拠らざるを得ないために,労働集約的生産形態からの脱出が著しく困難になつている.

鉄鋼が多品種少量生産ということがピンと来なかったので、更に検索すると、以下の文書が見つかりました。

自律分散システム入門: システムコンセプトから応用技術まで(自律分散システム入門 森欣司)

どうも消費者のニーズが移り変わって例えば多様な自動車が望まれるようになり、性質が全く異なる鉄鋼版を製造しなければならなくなったようです。

じゃあ、そんな労働集約的な産業は途上国に任せればいいんじゃない?という考え方もあるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えないんだろうと思います。アメリカでも自動車生産は行われていますし、例えば飛行機なんかはアメリカは非常に強いですよね。安全保障上の観点と言えば、軍需産業もそうですが。



これからIotやAIで鉄鋼業がどう進化するかも分かりませんし、新しい鋼材や技術も生まれてきています。目先の経済原理だけで、自国の鉄鋼産業を潰してしまってはならないんだろうと思います。

新しい鋼材、技術(日本鉄鋼連盟)

特定の国が鉄鋼を独占した時、その国が値上げしたり、新しい技術を開発しなくなったりする怖れも十分ありますし、関係のない別の問題を理由に脅迫してくる可能性もあるというか、しないはずがないぐらいに思っていた方がいいと思います。尖閣事件とレアアースに何の関係があったでしょうか?

中国、レアアースの対日輸出を禁止、尖閣問題で=報道
(ロイター 2010年9月23日 14:45)

アルミに関しては飛行機によく使われているようです。鉄鋼で飛行機を例に出したのはややズレていたかもしれませんが、趣旨をご理解いただければ幸いです。

ただの「鉄の塊」じゃない!?飛行機の部品は何でできている?(工場タイムズ)

高級素材産業で強いのは実際のところ日系のようです。

金属素材産業の現状と課題への対応(平成27年5月21日 経済産業省製造産業局 鉄鋼課・非鉄金属課)

トランプ大統領の意図がどうであれ、日本への影響もあるかもしれません。代替がない高級素材産業で多少の関税は直ちに関係ないとは思いますが、例えばアメリカの鉄鋼企業の保護になって、日系企業が不利になる可能性が否定できる訳ではないと思います。日本だけでなく、鉄鋼やアルミを生産している全ての国に影響はやはりあるんでしょう。アメリカの行動から報復措置が連鎖すれば、世界全体にとってマイナスになる怖れもあります。ですから、「すわ、貿易戦争か」という反応が理解できない訳ではありません。本来は一方的な措置をとるべきではありませんが、大義名分になっているのはやはり過剰生産の問題だと思います。

中国「鉄鋼の過剰生産は全世界の問題」 経済界にくすぶる不満(産経ニュース 2016.9.24 07:00)

>「違和感」の理由は、工業情報化省幹部が「過剰生産は中国だけの問題ではない。全世界の問題だ」と強調したためだ。

>中国の粗鋼生産量は、2015年は約8億トンで、00年の6倍になる。また、生産能力は12億トン規模とされ、4億トン規模の過剰生産能力を持つ。中国内でだぶついた鋼材が安価で輸出され、国際価格を大きく低迷させ、全世界の鉄鋼各社が業績不振にあえいでいる。

ソ連もかつて崩壊するまでドンドン鉄鋼をつくり続けたようですが、国の指示で企業がドンドン生産を増強してくるような国では何をしてくるか分かりませんね。強権的なエリート達が意図せず過剰生産を許してしまったとみるよりは、ハナから独占するつもりで、過剰生産させたぐらいに思っていた方が妥当ではないかと思います。中国の尊大で厚顔な言い訳は毎度のことですが、アメリカや国際社会など自分より強いものが怒り始めるとあるいは旗色が悪いと認識すると急に被害者になるまで様式美ですね。自分から船をブツけてきておいて、ブツけられたなどと言い張った事件は忘れられません。いずれにせよ、鉄鋼の過剰生産の問題はあまりに急激に鉄鋼生産を伸ばした中国の問題なのであって、世界の問題だなどと誰も思っていません。

不正発覚の神戸製鋼を直撃する「売上高減少、損害請求」(毎日新聞 経済プレミア 2017年10月16日)

>アルミ・銅製品などの検査データに不正が見つかった神戸製鋼所は、鉄鋼では新日鉄住金、JFEスチールに次ぎ国内3位、アルミではUACJ(旧古河スカイ)に次ぎ、国内2位の大手メーカーだ。ただ、主力の鉄鋼事業の不振で神戸製鋼は2017年3月期まで2年連続赤字決算だった。18年3月期は3年ぶりの黒字決算を見込んでいたが、目算が大きく狂うのは確実だ。

神鋼の不正は許されることではありませんが、隣国である中国の伸びに逸早く危機感と自身の無力さを感じ魔が差した可能性もないとは言えないんだろうと思います。言い訳ですけどね。アルミでも中国は圧倒的なようです。神鋼の不正は自身の説明によれば、10年前からだそうです(神戸製鋼副社長「改ざん、10年近く前から」 一問一答 管理職も把握、組織ぐるみ認める 日経新聞 2017/10/8 18:23)。


(日本アルミニウム協会)

トランプ氏の鉄鋼アルミ関税方針「全く容認できず」=カナダ首相(ロイター 2018年3月3日 05:47)

カナダがトランプ政権の措置に強く反対しているようですね。NAFTAの問題も多少はあると思いますが、鉄鋼業界の世界ランキングでカナダ企業は15位までに見当たりませんし、ウィキペディア参照ですが、世界鉄鋼協会が集計した国別粗鋼生産ランキング(2013)でも13位のメキシコより下の17位の生産量しかありません。アメリカの一方的な措置に懸念があるのは理解できますが、中国に無邪気な印象を抱いているのではないかと思ってしまいます。

中国系住民に乗っ取られたバンクーバー、愛国を唱えつつも移民を願う中国人(2017年11月13日 09時40分 サーチナ niftyニュース)

>中国メディアの今日頭条は7日、「カナダのバンクーバーはすでに華僑や華人に占領された」とする記事を掲載した。

>記事は、中国人の移民先として人気を集めたカナダはすでに中国人が移住し始めてから150年もの歴史があり、それゆえに中国人に対する敵対的な感情はないと主張。カナダから中国に一時帰国した移民たちはしばしば「バンクーバーはすでに華人や華僑、中国人に占領された」と口にするようだが、実際にバンクーバーの人口230万人のうち、中国系の住民はおよそ41万人ほどに達しているようで、その数はさらに増加し続けているという。

中国がカナダのことをどう思っているかを思い出してみるべきでしょう。

迂回路で言えば、こんなニュースがありましたよね。

日本産牛肉 今年度もカンボジアが最大輸入国 背景に中国の影(アジアビジネス情報ポータルサイト タイPlus One 鈴木博 2018/02/20 11:53)

>カンボジアでは、日本産の牛肉を見かけることは滅多になく、そのほとんどは、中国へ迂回輸出されているものと見られます。中国政府は2001年に日本でBSE(牛海綿状脳症)が見つかってから、日本産牛肉の輸入を禁止しています。中国の闇市場では日本産牛肉が日本の数倍の高値で取引されることもあるとしています。

>中国にとっては、カンボジアは使いやすい国と見下されており、日本産牛肉の迂回輸入は、カンボジアにはほとんど利益にならないのではないかと見られます。

本気で食品安全を懸念しているのだったら、迂回路を使って中国に日本産牛肉を入れる訳ありませんね。福島の事故に対する韓国の対応も同様ですが(韓国の輸入制限は「差別」WTOが是正勧告 日テレNEWS24 2018年2月23日 01:59)、中国も貿易を政治利用しているのだと思います。鉄鋼やアルミが例外だと考える理由は何処にもありません。

中国の過剰生産能力問題に関しては、大手国有企業を整理すべきだという指摘があるようですね。

中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業(Newsweek 2017年01月25日(水)17時20分)

日本としてはあまり中国に強くなってもらっても困る訳ですが、安値攻勢は勘弁して欲しいので、難しいところです。


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