デカドロン注(デキサメタゾン)
※デキサメタゾンの投与は内服でも静脈注射でも良いようです(厚労省 ステロイド薬・デキサメタゾンを新型コロナ診療の手引きに追記 ミクスOnline >デキサメタゾン6mg1日1回経口または静脈内注射で最大10日間投与した群(デキサメタゾン群)2104人、標準治療群4321人にわけ、治療効果を比較した)。
ステロイド、コロナで光 「万能」抗炎症薬、高い治療効果 大量投与が普及に壁(日経 2021年1月18日)
>実は国内では昨年春の流行「第1波」の時から、一部の医療機関で呼吸器内科を中心に、ステロイド療法を試みる動きがあった。しかも、WHO指針とは違い、「サイトカインストーム」と呼ぶ症状が急激に悪化する段階を捉え、集中的に大量投与する。これまでにも肺炎が重症化したときによく適用されてきた、いわば定石の治療法である。
新型コロナ感染症に限らず、肺炎の重症化にステロイドは定石の治療法で、何もイギリス(オックスフォード大学のRECOVERY試験 日経メディカル 2020/06/19)の専売特許でもないようで、第1波の時にも試行の動きがあったようです。日経記事によれば、サイトカインストームは捉えられるようで、WHOの方針とは違い、集中的に大量投与するようです。ただし、WHO、デキサメタゾン増産を呼び掛け コロナ重症患者の死亡率低減(afp 2020年6月23日)によれば、WHOは重症にデキサメタゾンは強調してきているように思われ、重症の定義の問題、医療手法の問題なのかもしれません。
>その先陣の一つとなったのが国立国際医療研究センターだ。昨年2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染爆発以降、おもに症状の重い患者を受け入れてきた。12月末までのおよそ435人の入院患者のうち、治療が確立した4月以降は状況が改善、死亡者数は4人で、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)装着のケースも1症例しかなかった。
ステロイドの高容量の集中療法は第1波の時から実績があったようです。そうであるならば(結果論ですが)、厚労省のデキサメタゾンの承認はもう少し早くて良かった気はしますが(抗炎症薬デキサメタゾン、国内2例目のコロナ治療薬に 日経 2020年7月21日)、実績があったから早くに承認されたという見方も出来るのかもしれません。国立国際医療研究センターとは、厚生労働省所管の国立研究開発法人で、国立高度専門医療研究センターなのだそうですが、ステロイド療法が先取りされていたとすれば、優秀なのかもしれません。まぁ日本発の治療法として普及させることが出来なかったとも言えますが、日本は標準化が苦手とも言われますね。あるいはそれをするには患者が少なかったのかもしれません。
>虎の門病院や聖路加国際病院なども積極的に採用しており、高い治療効果を確認しているという。都道府県ごとに違う致命率の差を生む一因ともいわれている。
都道府県ごとに違う致命率(コロナ死亡率に地域差 東京1・1%、岩手、富山、石川の3県では5% 佐賀新聞LIVE 2020/12/30(共同通信))は、高齢者施設でのクラスターの発生など他の要因にも左右されるでしょうが、このステロイド療法の普及が左右している可能性も考えられるということでしょう。いずれにせよ、ステロイドの高容量集中療法は既に積極的に採用している病院もあるようです。新型コロナウイルス感染症に対するステロイドの使用はWHOが承認したと言っても、治療の現場ではいろいろあるのかもしれません。
>国内でコロナの治療は主に感染症医と救急医、そして呼吸器内科医があたる。感染症医はウイルスの制御に重きを置くため、一時的に免疫を抑えてしまうステロイドの大量投与には慎重だ。救急医にとっては気管挿管や人工呼吸器が必要になってからが腕の見せどころとなる。
そう言われてみれば、新型コロナウイルス感染症の話題で案外デキサメタゾンという治療法に光が当たってない感じがあります。その原因は感染症医のステロイドに対する一種の忌避感にある可能性も考えられます(感染症患者にステロイドはご法度か ドクターズアイ 岩田健太郎(感染症)Medical Tribune 2017年6月1日)。呼吸器内科にこうしたステロイドに対する忌避感が無いかは知りませんが。ただ、新型コロナ治療薬、アビガンは軽症患者に、レムデシビルは中等症・重症患者に「弱く推奨」—救急医学会・集中治療医学会(GemMed 2020.9.15.(火)>ステロイド、軽症患者には投与せず、中等症・重症患者に投与することを強く推奨)によれば、救急医学会でも中等症・重症患者にステロイドは強く推奨されてはいるようです。高容量の集中療法ではないかもしれませんし、徹底されているかは分かりませんが。
それにしても新型コロナ感染症は重症患者だけでなく、中等症のケアが鍵になっている可能性もあります。あるいは容態急変をどれだけケアできるかも鍵かもしれません。容態急変の原因がサイトカインストームである確率がどの程度で、それは救えるものなのか等、専門家の議論に期待したいところであって、この辺はニュースを見ているだけでは今一つピンと来てはいないところです。
>秋以降は、患者の容体にかかわらず低容量で対処するWHOの指針が医療現場に浸透する。「コロナは一気に症状が進む。このとき大量投与しないとステロイドの効果をいかせない」(都内病院の呼吸器内科医)。場数を踏んだ専門医の「暗黙知」に基づく治療法はなかなかエビデンス(科学的証拠)にするのも難しい。
場数を踏んだ専門医の暗黙知が新型コロナ感染症に活かされていないとすれば、残念な話です。幾ら新型と言っても、ウイルス性肺炎ではあるのであって、これまでの経験値が活きることもあるでしょう。なお難しいと言っても医師の暗黙知を医療の現場で活かす試みはあるようです(医師の「暗黙知」を見える化、医療機器の開発に応用 MONOist ITmedia 2018年04月09日)。エビデンスというか学術論文にするハードルの問題かもしれません。
>医学系学会が加盟する日本医学会連合が策定したコロナへのステロイド治療に関するルールも基本的にはWHOに準拠したものだ。このため、日本呼吸器学会は高容量の集中療法を救命の選択肢にすべく議論を始めている。
WHOを何も軽視する訳ではありませんが(日本とWHO 厚生労働省 >世界保健機関 (World Health Organization: WHO) は、「全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的として設立された国連の専門機関です)、先進国である日本がWHOのルールに一々準拠しなくてはならない訳でもないはずです。専門の学会が厚労省を説得できるのであれば、応援したいところではあります。