観測にまつわる問題

政治ブログ。政策中心。「多重下請」「保険」「相続」「農業」「医者の給与」「解雇規制」「国民年金」を考察する予定。

新・生産性立国論

2018-05-26 19:58:49 | レビュー/感想
以前「日本経済を考えていくたたき台」という記事を書きましたが、ある時最低賃金を勉強しようとして検索して出てきたのが、これまで観光で触れてきたデービッド・アトキンソンさんの「新・生産性立国論」です。インバウンドをやろうとして、氏の本は大量に買ったのですが、生産性というキーワードに惹かれなかったということと、中身を見て(本屋で買ってます)知っている話が多かったので(レビューを書いていますが時間の問題もあって全て読んでいません)、スルーした経緯があるんですね。最低賃金引き上げの重要性に自分でふと気付いてから、最低賃金の引き上げの重要性を指摘したこの著者の先見性を再発見した次第です。

氏は生産性が効率性と混同しているのではないかと指摘しており、全くその通りで自身の不勉強を反省しますが、その不勉強な読者達の興味を生産性というタイトルで惹こうだなんて・・・と思わなくもありません。生産性と言われれば効率上げればいいんだろ?で高齢者も多いし専業主婦も多いしなで即効性もないんじゃないかと思ってしまいますが、そうではありません。生産性は効率や利益だけでなく結局は付加価値を高めることなので、その辺が伝わるタイトルにすれば内容の良さが伝わったのではないかと思います。筆者に氏を批判する気はありませんが、このような素晴らしい内容の本に対する批判は多かったようで、良さが伝わらないことは残念なことだと思っています。

付加価値・生産性とは何ぞやですが(正確な定義、式に関しては本をお読みください)、例えば氏はホテルの例を指摘していますが、シーツをピーンとはるとか誰も見ないベッドの下の真ん中まで綺麗にするとか効率的で日本にしかできない仕事かもしれないが、価格に転嫁できないなら、(付加)価値ゼロじゃないかで、日本人が混同しやすい利益や効率とは同一ではないとズバリ指摘しています。こう指摘すると世の中金だけじゃないと話を摩り替えて言い訳する経営者がいるんでしょうが(氏は無能だと指摘していますが、そこまで言ってしまうと言われた方はヘソを曲げてしまうでしょうし、いずれにせよ今の経営者陣が大体努力しなければなりませんから、あまり得策と思えません)、価格に転嫁できない仕事というのは、つまるところ求められていない訳で、自己満足の仕事・おもてなしの心に欠けた仕事・顧客視点がない仕事と言い換えることもできます。観光に限らず生産性が低すぎる日本の企業は求められていないサービスが多くあるでしょうから(日本の企業で特に生産性が低いのはサービス業です)、それをカットしなければ働き方改革もできませんし、カットしても売り上げは変わらず他の付加価値を生む仕事に人を回せるということになります。変わる世の中を無視して惰性で仕事をやり過ぎるということは良いものを守っているというより、一種の堕落だと思います。

金融業なんかも然りで、銀行では優秀な女性が明治時代と同じ配置でIT時代に効率よくアナログな仕事をこなしていると指摘されています。IT時代に金融がアナログも金融先進国の英米から見たら「嘘だろ?」でしょうが、日本市場で勝負する限り皆同じだから中々差がつかないし、誤りに何時までも気付かない構造があるのでしょう。

氏は高品質低価格を批判していますが、普通に考えればこれは是とされるような気がするでしょう。ですが低価格競争が激しすぎれば人口が減る中売り上げがドンドン下がること確実ですし、そもそも低価格を実現するために人件費をカットしたのでは、所得が増えず需要が増えませんから売上高も上がりません。これが失われた○○年で実際に表面化した問題だと思えます。人口が右肩上がりの時代は市場が拡大するから通用したやり方が通用しなくなったということです。日本が今のやり方のままでまた以前のように成長すると思っている人はほとんどいないはずです。

アベノミクスが緩やかなインフレを実現するとすれば、高品質低価格が達成されるのではなく、価値のあるものが妥当な値段で売れることによって達成されるはずです。誤解を怖れず言えば、高品質低価格を目指す企業は負け組みになり、多くの人が求める付加価値の高い商品・サービスを生み出せる企業が優れた商品をそれなりの値段で売って勝ち組になっていくと考えます。ホテルなんかも何時にチェックインとか供給者の都合でルールが決まっており、それは効率的な仕事を生んでいるでしょうが、早くチェックインしたい顧客の都合を無視しているということになります。早くチェックインしたい顧客のために別料金をとって商売を成り立たせることはできるはずです。そのためには稼働率を下げなければならず、同じことじゃないかと思うかもしれませんし、そういう考え方があってもいいとは思いますが、気をつけた方がいいのは、日本では高いホテルほど評価が低いようで、高いお金を払ってホテルに泊まる人の時間は一般に貴重だと考えられることです。1分1秒を惜しんでいる人達に何時にホテルに来いだなんて馬鹿げており、それが高いホテルの評価の低さに繋がっていると考えられます。富裕層相手の商売は付加価値が高いですが、日本人は付加価値が高い仕事が苦手だから(非効率的ではなく)生産性が低いのだと考えられます。高い金を払ってでも欲しい商品・サービスが優れた商品・サービスだという時代が来なければ、人口右肩下がりの時代の経済は回らないと思います。

デフレでタンス預金が目減りするという現実はなく、デフレ下ではタンス預金・低利率でも預金有利になりますから、金を使わないことに補助金が出るような感じになり、ただでさえ人口減が進む中、皆が金を使わずそのことが金を使わないことを呼んで、何時かは日本が終了すると考えられます。これが経済学の常識デフレスパイラルでしょう。アベノミクスでは金融緩和というカンフル剤で誤魔化した感じになっていることは否めません。低利率でも預金があれば国が借金して財政政策で誤魔化せると考える人も多いようですが、マイナス金利が銀行にダメージを与えて、いずれは破綻すると考えられます。世界金融危機でタガが外れたように財政は拡大してきましたが、日本経済は必ずしも復活したと見做されていません。金融緩和が続かず、デフレを財政拡大で払拭できないと考えるなら(皆公務員になって経済活性化するなら冷戦は東の勝ちだったでしょう)、金融緩和や財政政策で時間を稼いでいる間に生産性革命すなわち企業が付加価値を高める商売に切り替えていくことで、デフレを脱却するしかありません。

問題は生産性革命と聞くと日本人特に今の経営者が効率アップで人件費減らしを考え実行しかねないことだと考えます。人件費が減ってしまうと需要が増えないのでデフレ脱却は成らないということにならざるを得ません。そうではなく根本的に重要なのは企業は顧客が求める仕事をするべきであって、求められる仕事というのは顧客が高いお金を払ってもいい仕事のことであり、そういう仕事を創れた企業・やっている企業の売り上げが上がって、高い給与を払い需要を創出していくというサイクルをつくっていくことです。これが実現すれば自律的に物価が上がり、消費税を必ずしも上げなくても緩やかなインフレで財政がよくなっていくと考えられます。少なくとも政府は一文もお金を使っていません。

かつて埋蔵金が話題になりましたが、タンス預金こそ埋蔵金そのものでしょう。企業に眠っているという内部留保とやらも同じですが、物価が緩やかに上がっていくというかつての日本・日本以外の世界の正常な状態を取り戻せば、金を眠らせておくと大損こいてしまうので、賢い皆さんは隠しておいた埋蔵金を掘り出し、消費するなり投資するなりして需要が拡大していくということになります。デフレが良いことではないかという考え方こそが経済においては悪そのものであり、古今東西デフレで栄えた国はないと言えると思います。

で、具体的にどうインフレを実現するかと言えばこれが最低賃金の引き上げになるのではないかと考えられます。政府がお題目を唱えたところで企業がはいそうですかでロボットのように動く訳ではありません。筆者が最低賃金引き上げが鍵ではないかと気付いたのは(そんなことを考えていた人はアトキンソンさん始め他に多くいるとしても)、最近のヨーロッパが日本と違って成長している理由を考えたからです。これは直感ですがヨーロッパは物価が高いイメージがあり、その原因は最低賃金の引き上げではないかとふと考えました。政府がやれるのは講釈を垂れることではなく政策です。氏の本を読むとやはりヨーロッパの事例では最低賃金の引き上げと生産性は相関性が強いという証拠があるようです。この辺が(筆者の知る範囲では)アメリカ人ではなくイギリス人が日本に効果的な政策を考えられた理由ではないかと考えられます。ただアメリカでもヨーロッパほどでないにせよ最低賃金の引き上げと生産性に相関性はあって、アメリカは移民の国で人口増加率も悪くなく世界一ブランドで世界中から優秀な人を集められる特殊な国ですから、最低賃金の引き上げに否定的なアメリカ的な考えを重視し過ぎることは日本にとってはよくない面もあると考えられます。いずれにせよ、アメリカほど経済重視で効率一辺倒と考えられていないヨーロッパが日本と違い成長を続けているという不思議な現実があり、最初からそうならば優秀な人達なのだなで終了ですが、かつては日本の方がガンガン伸びたのでちょっとおかしいなと思う訳です。人口要因も重要でしょうが、人口決定論に陥ると日本はタイムアウトで夢も希望もないという結論にならざるを得ません。筆者は必ずしも移民を否定しませんが、今から移民立国は現実的ではなく、もうまにあわず効率的でもないということになるでしょう。日本人がやりたくない仕事や優秀な人達が来てくれるならいいことではないかとは思いますけどね。移民に関しては大勢を変えないサブメニューでいいのではないかと今は考えています。看板を降ろさないのは意地ではなく、外国人嫌いは寧ろ日本ではないと考えるからです。大体がデービッド・アトキンソンさんも(移民に否定的ですが)日本が好きだとはいえ、何処からどうみても外国人であって、日本で生まれていたら今の仕事は確実に無かったはずです。外国に素直に学べるのが日本の良さであって、外国人嫌いこそ日本ではない気がするんですよね。まぁ移民を大量に入れて日本を大きく変えるのも日本ではないというのは認めます。氏は本当に凄いと素直に筆者は思いますよ。バブル崩壊の時の話もそうですしインバウンドもそう生産性もそうこれだけホームランを連発する論者はそうそういるものではなりません。気に入らないところがあると思うならそれはあまり気にしないとか独自に解釈すればいいだけです。教科書を丸々覚えて答えを書くだけが勉強ではありません。

最低賃金引き上げの何が良いかといえば、経営者のマインドというフワッとしたものに頼らず、現実に流れをつくってしまえることです。底辺でも給与を上げざるを得なければ、対抗するためにその上も給与を上げざるを得ず、全体的に給与が上がることは明白です。人件費が上がっても需要が増えれば売り上げが増え企業的にはトントンになります。特に底辺近くは消費性向が高いので上がった分はそのまま消費になるでしょう。企業が付加価値を上げる努力をすれば、勿論富裕層の消費も増えます。需要が増えれば物価は上がり埋蔵金が掘り出され更に需要が増えるというサイクルになります。最底辺の賃金は強制的に上げますが、言いにくいことをあえて言うと働きが悪い人の給与を上げず成果給に近い感じにしていくことが出来ます。これがデフレの時代にはできなくなり経済が活性化しません。日本も昔は(物価が上がっていた時代は)実力主義で給与を調整できたのではないかと考えられます。緩やかなインフレ状態こそが正常な経済であり(しつこいようですがかつての日本はそうでした)、流れが止った川は淀むしかありません。人口減で市場が縮小するじゃないかとデフレマインドの経営者がいたとしても、役所がはい最低賃金引上げねと言えば勝負するしかなくなるでしょう。皆が少しづつ勝負すれば緩やかなインフレになり皆が幸せになれますが、デフレで皆が幸せになるなんて本当のところは誰も思っていません。日本には大体消費税引き上げでデフレ促進ジリ貧派と積極財政で政府拡大いずれは破綻派しか存在しないように見えます。どちらも誤りだからどちらも説得力がなく勝負の決着がつかないのかもしれません。

この本には女性の社会進出がGDPを増やすの話も書いていますが、それはその通りとしても実現する主要な具体策は最低賃金の引き上げでインフレ誘導になるのではないかと考えられます。幾ら政府が男女共同参画で音頭をとっても国民が素直に踊ると考えにくいところがあります。企業が女性の社会進出を促すことが企業にとって効率の良いことであれば、女性の社会進出を促した企業が勝ち組になることによってそれが達成されることになります。どう考えても男性と遜色ない高学歴の女性が受付嬢や専業主婦・パートの類で生産性が上がるとは思えません。別に学歴が全てではありませんが、その辺も含めて女性活躍は経済を活性化させるでしょうし、現実にそれは世界で起こってきたことだと考えられます。そうでないというならば、やたら高福祉で如何にも経済が悪くなりそうな北欧が結構元気な理由を他に何か考えなくてはなりません。ただ、その辺も企業が現状を何も変えなくてもいいと思っているならば必ずしもそうはならず、ちょこちょこっと経済を動かして適度な競争を促すことが重要だと考えます。どうしても専業主婦がいいんだという人を無理に会社に引きずり出す必要はありません。ただ専業主婦が実現する社会が良い社会理論を日本が皆で目指していくならば、半分の労働力を眠らせた日本は早晩沈没するのではないかと思うのみです。

最低賃金を引き上げたら生産性の低い企業は潰れてしまうかもしれません。でも潰れた企業から労働者は解放されますし、その時大体付加価値が高い企業が高めの給与を出して悪くない結果に全体としてはなるのではないかと考えられます(貧乏クジを引く人が出ることは避けられません)。下手に企業を守るということは生産性が低い付加価値が低い企業を守ると同義で労働市場も活性化しませんし、守られると分かっているなら経営者も努力しなくなると考えられます。東西冷戦は西側の圧勝に終わりました。結果の平等前提で皆公務員的社会が経済を終わらせることが理解できない人は相当だと考えざるを得ません。適度な競争はどうしても必要だと考えられます。誇張して例えると経済とは止ったら死ぬマグロみたいなものでしょう。

痛ましい事件で電通は叩かれましたが、筆者は電通鬼十則は結構好きです。別に精神論でモーレツに働けば上手くいくと主張したい訳ではありません。電通「鬼十則」その一は「仕事は自ら「創る」可きで与えられる可きではない」です。企業の付加価値創造が重要だと考えられる今の時代だからこそ含蓄深く時代を先取りしていないでしょうか?経営者もそうですが社員もこの仕事に付加価値があるだろうかと考えるようになれば経営者にも情報が集まるでしょうしその社員が経営者になった時優秀な経営者になれるとも考えられます。その二は「仕事とは先手先手と「働き掛け」て行くことで受け身でやるものではない」です。受け身でただ漫然と同じことを続けていくなら新たな価値の創造もなく、生産性向上は永遠にならないでしょう。ひとりひとりの技術者の技術が向上したところで、何時かは年をとり引退することになりますし、若者にはまたイチから勉強してもらわねばならず若者の数は減る一方です。人間は考えることができる動物で脳の働きは無限の可能性があります。少なくとも効率性×数の単純計算ならば、人口が減った時点でアウトになることは間違いありません。

さてこのようなシナリオで日本が進んだ時どうなるか?それは一人あたりのGDPが増え可処分所得が増えて良いサービス・商品が増えて満足度も高い国になれると考えられます。人口が減るなら一人あたりの分け前が増えるという訳です。それも消費税を上げてデフレを促進するやり方でも財政をドンドン拡大して政府が金を使うやり方でもどう見ても停滞しているのにやり方を変えないままでも実現しないのではないかと考えられます。全ては経済の自然の流れを取り戻すことが先決で、後ろ向きのデフレマインドがこびりつきある意味悪くなった(暗くなった)日本の精神を変えて、進取の気性に富んだ日本の精神を取り戻すことが重要だと考えられます。安倍政権は若者の支持率が高いということですが、子供や孫に良い日本を残すためにもこうした改革に少しでも多く賛成してほしいということですね。今のままどう見ても袋小路の日本国が何も変えず上手くいくだなんて楽観的な人がいるとは信じられませんし、ちょっとやそっとの小さなアイディアで大きな流れが変わると楽観的な人がいるとも信じられません。筆者としては最低賃金上げ推しでそれが企業や国民皆の努力を引き出し全体の流れが変わってくると考えています。最低賃金が上がったらその上の企業は底辺に並んでしまいますよね。それだけの企業ならそのままですが、余裕があるなら人を集めるために努力するに決まっています。生活保護よりワーキングプアの方が貧しいという逆転現象も解消されるまで生活保護に手をつけないだけで解決します。

日本経済が本当に強くなったら円高になってしまう可能性もあります。そうであるならば、相対的にドル・ユーロは安くなってしまうでしょう。購買力が上がれば(トランプ大統領は変えようとしていますが)アメリカのように海外で生産して輸入しようという企業も増えてくるかもしれませんが(海外に雇用が流出したとしても海外が日本の付加価値が高い製品・サービスを買えば同じですし、インバウンドの増加で回収できると考えられます)、アメリカ経済は今のところNo1で中国が追い上げていても近い内に追いつかれる兆候はありません(日本の購買力が上がれば欧米の付加価値の高い製品・サービスを日本が買えるようにもなるはずですし、途上国のリーズナブルで悪くない製品も買い易くなります。世界的日本企業は拡大する日本経済を基盤に世界で更に成長するかもしれません)。少々物価が上がっても給与や年金が上がれば問題ありませんし、基金の状態が悪くなれば貰える年金は少なくならざるを得ません。少子化で子供や孫の未来はないと思っている人が多いかもしれませんが、経済成長していれば年金はどうにかなるはずです。税収もそうですが、経済成長がなくジリ貧になれば(つまり今のまま何も変わらなければ)、あえてキツイ言い方をすれば全てが終わると考えられます。別に破綻してハイパーインフレになっても優秀な企業で働いている人はどうとでもなるかもしれませんが、そんな日本は見たくはありません。


Japan products & food fair in Vietnam

日本はこのまま終わるでしょうか?筆者はまだまだやれることがあると思いますし、劇的に改善する可能性があると信じます。


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