とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ミャンマー大冒険(92)

2006年09月18日 16時13分09秒 | 旅(海外・国内)
新市街へ向う道路は舗装され、森かと見まごうばかりの青々とした木々の中をまっすぐに延びていた。
木漏れ日が少しでこぼこの路面に美しい陰影を作り出していた。
周囲には、これまた緑豊かな畑が広がり、その中から遺跡群の黄土色の建物が点々と顔をのぞかせている。
天空は日本の初秋の空のように晴れ渡りで、刷毛ですっと掃いたような白い雲が浮かんでいる。

私たちのタクシーは暫く走ると、旧市街と新市街とを隔てるタラバー門にさしかかった。
古い城壁のようなタラバー門は普通自動車がなんとかすれ違えるほどの狭い門だった。
朽ちたレンガ造りの背の高い城壁。
通りの部分だけが狭く、四角く切り取られているといったところだ。

タラバー門の向こう側にも緑色の並木が続き太陽の光に照らし出された何千何万という若い枝葉がそよ風に揺らされて黄色く輝いている。

私たちが門を通り抜けようとしたまさにその時だった。
木々の輝きを背景に自転車に乗った何十人もの学生たちが門の向こうから勢いよく駆け抜けてきたのだ。
男子生徒は白いカッターシャツ、女子生徒は白いブラウス、そして両者ともミャンマーの伝統衣装である緑色のロンジーを穿いて、銀色に輝く自転車のペダルを軽快に漕いでいた。
緑色は学生の制服だ。
布製の肩掛の鞄も緑色。

シャツの白。
ロンジーと鞄の緑。
そして午後の優しい陽光が創り出す樹木の緑。
キラキラ輝く自転車のフレーム。

彼らが駆け抜ける躍動的で若さに溢れたこの光景は、遺跡群の景色にも劣らないほど私を驚かせた。
デジカメ写真でこの躍動感は写し込めない。
ビデオカメラを持ってくるんだった。
と、思った。

「高校生ですよ」

そうか。
私たちの船が着岸したのが午後3時過ぎ。
それからちょっとした手続きをして今ホテルに向っているのだから、ちょうど学校は下校時間なのだ。
ミャンマーの高校も授業が終わる時間は日本とだいたい同じらしい。
そんな、なんでもない日常の営みの共通性に感動している私であった。

通りを南に大きく曲がると両側に小さなレストランや売店が建ち並ぶエリアに出た。

「ここがニューバガンのメインストリートですよ」
「へー」
「ここでは、ああいうレストラン程度しかありませんけどね」

Tさんが説明してくれた平屋の殺風景なレストランが、ここバガンの夜を彩る唯一の娯楽の場らしい。
色街などまったくない田舎町で、ここを訪れた外国人が楽しめるのは、この田舎レストランでのバータイムなのだ。

大通りはさして長くはなく、すぐに大きなロータリーにさしかかった。
ミャンマーは英国植民地として苦渋をなめてきた歴史を持つわけだが、道路の方向転換にロータリー(ラウンドアバウト)が多いのは、きっとそのなごりなのだろう。

ロータリーをぐるっと西に進路を変えると、アスファルトの道は終わっていて、でこぼこの砂利道が続いていた。

「あれ、またまた日本の中古バスだ」

ロータリーを曲がったところで、前方に「志摩スペイン村」の看板を掲げた元近鉄バスの中古バスがゆっくりと走っていた。
こんなところで馴染の志摩スペイン村の広告を見ることになるとは、これも「栃木米」と書いたトラックでさえ走っているミャンマーならではの景色でもある。

砂利道を数百メートル走ると、右手にお洒落なコテージタイプのホテルがあり、私たちの乗ったタクシーはその駐車場に入って玄関前で停車した。

木造の清潔な外観だ。
ルビートゥルーホテル。
地球の歩き方に載っていないホテル。
しかしなんとなく良さそうなホテルではないか。

タクシーを降りるとボーイが笑顔で迎えてくれ、続いて宿の女主人も出てきてにこやかに歓迎の挨拶をしてくれた。
気持ちのいいホテルだ。
さて建物に入りましょう、というところで、なんと懐かしや。
ヤンゴンからのダゴンマン列車で苦楽を共にした石山さんがロビーから出てきたのだ。
私たちがタクシーを止めた玄関前には観光用のワゴン車が駐車されていたが、それは石山さんがチャーターしていた観光車だったのだ。

「石山さん~!」

と私もTさんも大感激。
石山さんも私たちの姿を認めるなり声を上げて喜んだ。
「私たちの泊まる予定のホテルには石山さんも泊まっているはずですよ」
とTさんはあらかじめ話していたが、こうも早く出会えるとは思えなかった。
ともかく旅は道連れ世は情け。
同じコースを辿っているので、いつか出会とは思っていたが、やはり実際に再会してみると古い知り合いに出会ったような懐かしさと嬉しさが込み上げてきたのだった。

つづく

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