すみません。リペイントで神経使ったものですから時計でリフレッシュしていました。1960年製のセイコーマチック20石という機械。自動巻き機構のマジックレバー方式を採用した2番目のモデルですね。初代はジャイロマーベルといいますが、ジャンクでも高いので・・辛うじてテンプは振れているのですが、自動巻き用のローターがスムーズに回転しない。元々、初期のモデルは動きが重いようですが、それにしてもという感じ。
これが自動巻き機構を裏からみたところ。カニの爪のようなレバーが歯車を抱えていますね。これがマジックレバー方式の自動巻き機構で、従来は、ローターの回転が一方向でなければ巻上げが出来なかったものを、この方式でどちらに回転しても巻上げが出来るというすくれもの。セイコーでは世界初とか言っているようですが、すでにオリジナルのアイディアはヨーロッパのメーカーにあったようです。レバーの中心軸は偏芯しており、これによって回転力を生み出すのですが、この軸が外れています。不具合はこれが原因です。
驚くのは、この地板の薄さです。初代のジャイロマーベルでは、ふつうの手巻き機械に自動巻き機構を追加した構造のため、非常に厚い機械となっていました。それを改善するために地板から寸法を詰めています。このような改良は日本人が最も好きで得意なところです。
組み上がり。なるほどローターを付けても厚みが気にならない寸法に収まっています。この機械62系はその後の上級モデルにも改良されて使われた優秀な機械だそうです。良く見るとリューズのサイズが小さいですね。このモデルは巻上げは自動巻きのみとして手巻き機構を省略しています。それによってリューズは時間合わせのみに使用するため小さく、ケース内に収容してでっぱりがないスマートな構造となっています。
まだ針は仮に付いているだけです。リューズは何と、べセル側にも逃げがあって(位置固定)薄く作ることに涙ぐましい努力をしています。下が手巻きのセイコークラウンですが、マチックの方がスマートに感じます。金メッキの現存ジャンクはケースの状態が良くありません。殆どバンドを付けるラグの先端部分が剥げて真鍮が露出しています。そこで、その部分を簡易メッキしてみました。まぁ、真鍮の酸化を防止するという程度ですね。セイコーの金めっき厚さは20ミクロンありますが、簡易メッキでは数ミクロン程度です。
で、お待ちかねのお仕事です。PEN-Fが2台来ましたが、1台は状態が悪いのでキャンセルしました。で、状態の良さそうな方の個体#2282XXを途中からUPです。良さそうと思いましたがダメですね。ご覧のようにスプール軸が地板のホルダー部に固着して抜けません。では、どうやって回転していたの? それはね、ホルダー部のカシメが緩んでホルダー部ごと回っていたのです。Fではこれは意外に多いのです。何故かと言うと、スプール軸の潤滑不足です。真鍮という材料は、潤滑がない状態で高負荷を掛けると「かじり」を起こして食いついてしまうのです。そもそも、新品の時から潤滑はされていなかったような感じですね。
そこで、スプール軸にショックを与えて分離したところ。地板のホルダー部は再カシメをしておきます。やれやれと思ったら、またまたダメですね。スプールギヤの内径のネジ山とピンセット先のネジ山が壊れています。やれやれ・・
駒数板の裏側を見ると、かなりキズだらけですね。と言うことは過去に分解をされているということです。ネジ山の破損がその時の分解によるものか、はたまた、スプール軸固着によるストレスが原因か? それは分かりません。
仕方がありませんので、画像のようにセットで交換としました。手に持っているギヤがグラグラで締め込んでも留まりません。これでは駒数計が動かないもので・・・後はチャッチャと言って欲しいなぁ・・
保存自体は悪い個体ではありませんね。プリズムの腐食も出ていませんしブレーキのOリングもちゃんと残っておりました。しかし、ブレーキの機能を果しているわけもなく、交換してあります。全反射ミラーも交換です。
付属のF用38m f1.8ですが、絞りレバーの作動が異常に重い。しかもバネの擦れるような音がします。絞り羽根に付着している油がすごいですね。これでは作動が重いわけです。これは全て分解して脱脂洗浄しなければなりません。
過去に分解歴のある(ほとんどあります)レンズですが、ピンセット先のバネが延ばされて変形していますね。これは、慣れない方が犯すミスで、マウント部を分離する時に、バネが引っかかっていることに気が付かず、ビョーン、あっ、と気が付いてもすでに遅いのです。ご覧のように「く」の字形に変形しているため、中央のリングに接触して絞りレバーの復帰に抵抗となっています。絞り羽根の復帰が遅いということ。
まぁ、いろいろありましたが完成しています。絞りレバーのトルクはちょっと弱めですけどね。画像の部品を交換してあります。左はセイコーマチック20。こちらも完成しており、中々正確で調子も良いです。自動巻きで楽ちんなので外出時に使用します。