このPEN-FT #1049XXのオーナーさんはデジカメからフィルムカメラに移行されて来たという珍しいお方。オークションでたまたま入手したのが今回の初期型FT。いやぁ、苦労を背負い込んじゃったかな? と拝見してみると・・確かに巻上げの感触はゴリゴリで悪いが、この保存状態の良さは何なんだ! 殆ど使用された形跡もなくので外観や塗装の剥離も無い。トップカバーのビスは開けた形跡はありましたが、内部に手をつけた形跡はありませんね。カバーを開けたときにターミナルの配線を切っていますから、知識の無い方の仕業でしょう。
驚くのはミラーなどの光学系の劣化が皆無なこと。ハーフミラーはこれから分解して検証しますが、初期型でこのリターンミラーの状態は驚異的に良いです。貼り替えかな?とも思いましたがオリジナルですね。一般的にもこの状態を維持するのは高温多湿の日本では難しいはずです。海外里帰りなら納得しますが、PASSEDシールの貼り跡もありませんから国内ものなんでしょうねぇ。製造当時から防湿庫というのも考えにくい。まぁ、資料的に貴重な初期型の良品ですから、しっかりとメンテナンスをしていきます。
すばらしく保存状態の良い初期型ですので、すんなりとメンテナンスは終了するかと思われましたが、そうは問屋が卸してくれませんでしたね。不具合や初期型の特徴的部品がありますので、ごっちゃに書きますよ。まず、ピンセット先のギヤに擦れ跡がありますが、これは右側の↓部分が接触をしているのです。コンマミリ単位での寸法を詰めてあるため、図面上ではクリアランスはあるはずなものが、実際には加工精度などの問題で接触してしまうのです。これは初期に多い不具合で、厳密にはシヤッタースピードにも影響があるはずです。工場で接触が分かっていた個体は、予めヤスリ掛けをされている個体も存在します。
巻上げレバー裏の露出計ユニットのダストカバーは↓のように平板の打ち抜き部品ですね。これでは不完全なので、すぐに下のピンセット先のコの字型のものに変更されます。しかし、焼け石にお湯程度でしょうね。
代わりに、露出計ユニットのプリズム部分には遮光用のカバーが付いています。これは、↑の変更により省略されます。
カウンタープレートを留めるナットはダブルナットになっていますね。手の込んだことを・・その後はシングルナットとなって、またまたその後にはナットではなくてビスに変更されます。(シャフト側が雌ネジになる)
シンクロターミナルとそれを留める真鍮ナットのなんときれいなこと。まるで酸化していませんね。どこにあったのでしょうね? しかし、中央の絶縁体のカシメが不良で抜けてしまいます。どうもカシメがだめですねぇ。トップカバーの裏側のエプロン部分を見てください。キズが沢山ついていますね。プレス型がうまくいっていない頃なのでしょう。修正の跡です。表面は研磨をしてから梨地を打ちますので現れません。
メンテナンスをして行くと、巻上げの途中で止めると逆転することに気が付きました。これは、ピンセット先の逆転防止爪が機能していないためで、観察すると、初期の爪は先端の形状が緩やかでギヤ歯に噛みにくい形状をしていることと、テンション用のスプリングが非常に弱いことが分かります。スプリングの強度は経年劣化も考えられますが、爪の形状はこの後鋭い先端の形状に変更されますので、やはり問題が起こったのでしょう。
またまたカシメの問題ですね。←のコントロールレバーのカシメが緩んでシャッターダイヤルのカムから外れそうになります。手に持っているユニットは後期のもので、レバーの形状違いますし、なによりカシメしろが大きく取ってあります。と言うことは、こちらも問題となったわけです。今回は、再カシメ修正をしておきましたが、緩んだカシメは二度と同じ強度にはカシメることは出来ないのでちょっと心配ではあります。まぁ、その時は考えます。オリンバスさんは、初期型というとカシメ不良が多いのは何故なんでしょうね。
なんやかんやで完成しています。一度分解歴はある個体でしたが、トップカバーを留めるビス(全てスリ割り)の頭が笑っていますので推して知るべし。電池室からのリード線の線径が細いのでリード線をやり直した可能性があります。初期型の特徴であるセルフタイマーボタンにキズがありましたので・・この後の生産ではボタンの出張り量を増やすために厚みが増しています。SSから「開かないぞう」ってクレームがあったのでは? まぁ、初期型の特徴ですから交換はしませんが。