作業の合間に恒例化してきましたね。ご常連さんから「気分転換で腕時計のO/Hはすごい」と言って頂いていますが、確かにサイズがカメラより一段と小さいので、その意味では大変なんですけど、トレーニングですかね。このサイズをやっているとカメラなどは何でもなくなるのです。カメラの修理をされる方は大勢いらっしゃると思いますが、腕時計から自動車まで、一人で作れる人間は少ないのではと自分では思っておりますが・・で、いつもの56キングセイコー5626-7000ですが、多機種を経験するのも勉強ですが、一点集中も勉強なり。しかし、どうでも良いけど、こんなひどい程度のジャンクを買わなくても良いのでは? と、私自身思いますね。風防とベセルが無くなって放置された時計ですが、内部の機械が助かっていてくれる事を祈りますね。水が入っていたらアウトです。曜日と日付けが妙にきれいなので、この状態でしばらく作動していたと推理しての入手です。もちろん、現状は不動ですよ。この時計のケースはワンピースケースと言って、裏蓋はありません。風防を取って前から機械を取り出しますが、ピンセット先のリングを回すとロックが外れます。これを知らないと永遠に分離できません。
分解してみると・・・幸い水の浸入はありませんでしたので、復活させることは出来ると思います。全て分解洗浄をしたところ。この部品は香箱車と言って、動力のゼンマイが入っているところですね。内部のグリスはカラカラ状態でしたので洗浄しました。左の蓋は勘合で組まれていて、簡単には外れませんが、この香箱は過去の組立時にペンチのようなもので強引に押し込まれた形跡がありますね。↓香箱車はすべての作動の元となる重要な部品ですので、変形や磨耗があると安定した作動と精度が確保出来なくなるのです。まさかプロの時計士さんの仕事ではないと思いますが、どの世界にも乱暴者はいるものです。
まぁ、何とか組みましたよ。画像は自動巻き部分を残して完成しているところ。テンプなどインカブロックに注油をして行きます。作動は良好ですので、整備済みの予備の機械が確保出来ました。
では、お仕事です。あれれ、また三光PENですねぇ。しかも#1028XXと先日完成したINOBOOさんの三光PENと製造時期の非常に近い。しかも、オークションもの。外観はきれいですねぇ。INOBOOさんはこの個体を入手していれば、私も苦労することも無かったし・・・
もちろん、過去に分解の手は入っていますが、そつなくまとめられていますね。外観で気になるのは、片耳の吊環位置があっちの方を向いてますね。これは調整ワッシャを抜かれたか、別の個体からの移植です。巻き戻しダイヤルが異常に抵抗が大きい。センターの板バネを留めるビスがオリジナルではない。ピントチェックでは、大幅に後ピンとなっています。オーナーさんからのご指摘では、シャッタースピードが変化していないのでは? とのことでしたが、25-1/33 50-1/34 100-1/53 200-1/100と変化はしているのですが、遅いのですね。古いシャッターですから、カタログ通りは無理ですが、何か原因があるのかもしれません。
あれれ・・これもどこかで見たような眺めですね。シャッター羽根の真ん中にへこみがあります。これがオリジナルなのかなぁ?
シャッターを洗浄して観察します。この部分がスローガバナーですが、このシャッターは古い設計思想の頃ですので、ユニット式ではなく、地板に部品を組み込んでいく設計です。この部分の作動が良くありませんね。この部分は過去に分解をされていますね。真鍮のプレート位置で分かるんです。
接着硬化の時間を考慮してファインダーを先に仕上げようとしましたが・・・あらら、何でしょうね。そもそも、この頃はピンセット先のアルミのカバーは使っていませんね。対物レンズは樹脂製なので、ファインダーブロックと対物レンズはオリジナルのようですが、その他のレンズ類は交換されているようです。
観察すると、ハーフミラーが裏表逆に接着されていますね。接眼レンズもサイズが大きいものを無理に接着しており、端が欠けていますね。そもそも、この白い接着剤は何のためでしょう。白を使う意図が全く理解できません。
こう言うのは見なかったことにした方が平和なんですが、それが出来ない性分ですからいつも貧乏です。シリコンの充填剤のような接着剤を落とすのに1時間の工数が掛かりました。樹脂の対物レンズと保護ガラスは、これ以上分解しない方が無難と判断して手をつけません。作業を行い場合は、その時良ければ良いという考え方はダメです。フィルムが存在する限り、修理した人が死んでもカメラは生き残って、次の世代のリペアマンが修理をすることになるのです。その時に、ダメージなく分解しやすいように組んでおくことが現代のリペアマンの良心だと思うのです。説教がましいことを・・で、右から2枚目の欠けたレンズは部品が違いますね。これは右端のレンズと同じもので、ブライトラインの明り取り用レンズです。(このレンズもこの頃の部品ではなく、おそらくPEN-S辺りの部品でしょう。寸法が長いのです。)
左のレンズが正規の接眼レンズです。サイズか異なるので、組み込むとカバーと干渉して欠けてしまったのです。
スプール軸受が緩んで回ってしまいますね。じつは、左のスプロケット軸も緩んでいました。この頃は緩み止めの処置をとらずに組立されていたせいでしょう。
トップカバーを洗浄していましたら、駒数ガラスが剥離して来ました。古い接着剤をすべて剥離してから再接着をしておきます。駒数ガラスはクラックが入っているので、後年の部品と交換されている可能性もありますが、今回はこのまま再使用とします。
シャッターはメンテナンスによりスローガバナーの作動良好となっていますが、スピードは思うように上がりません。2枚羽根ですから、元々スピードは上げにくいですが、メインのスプリングや凹みのあったシャッター羽根を交換してテストを繰り返してみましたが、結果的にはそれほどの改善変化は認められませんでした。現存のPENは皆この程度の状態と思います。今度、強化スプリングでも試作してみましょうかと思います。レンズについては、う~ん、後玉が入るネジ部にキズが多いのです。だいぶ苦労していじった形跡があります。その割には後玉の程度は悪くはないので、返って疑ってしまいます。交換されている可能性もありますね。ファインダーの一件からして・・また、ちょっと失敗。巻き戻しノブはその後のPENとは設計が異なりますが、なぜかノブの部分だけメッキの質が悪く、洗浄して磨いていましたら、表面のクロムメッキが落ちて来ました。下地にニッケルメッキを施さない直付クロムと思われるもので、母材の真鍮が腐食気味であったようです。うちの在庫を見ましたら、みんな表面だけメッキが劣化しているので交換することが出来ません。ノブの止めビスは規格外であったので、交換してあります。
ちょっとブレイクタイムです。この時計は、いつものキングセイコーではなくて、1967年製のセイコー5 DX 25石に搭載されている6106Aという機械です。私が高校生の時に使用していた時計と基礎キャリバーは同じで、ケースの形状も一緒です。石数と文字盤の色やデザインが異なっているだけ。懐かしいので不動のジャンクを入手していました。不動の原因を探っていくと・・あっこれだ。二番車の隙間に金属片が挟まっています。これは、秒針を規正するレバーの先端部が折れたものです。その他は、腐食も無く問題はないように見えます。
すべて洗浄をして組立てて行きますが、すでに香箱車と輪列を組んでいます。通常は、香箱車(ゼンマイ)など力の掛かる部品には、現在主流のグリスを塗布していますが、今回は、セイコーの技術解説書に指定されているセイコー純正のグリスと油を使用して組んでみます。
輪列側はガンギ車やアンクル、テンプを取り付けて一先ず裏返し。表(文字盤側)だけど。折れていた秒針規正レバーは別の個体から調達して交換してあります。このモデルは、リューズをプッシュすることで日車を回転させて日にちを変える機能がありましたが、グリス切れの状態で作動させたために折れてしまったのでしょう。この頃は、後の56系のような樹脂部品や紛失しやすい小さなバネを使っていないのは好感が持てます。
ユニットは完成していますが、姿勢差によるテンプの動きが少し不安定な気がしますね。天真が磨耗ぎみなのかも知れません。テストを繰り返して不調であれば、テンプを交換してみます。
で、PEN-Fです。特に問題は無い個体のメンテナンスということでしたが・・シリアルは#2705XX。うん? 変ですよ。その頃の個体ではないでしょう。前面からの眺めでは、リターンミラーの2ヶ所に固定ビスがあるタイプ。それに、その後ろに見えるシャッター羽根がピカピカです。これは製造初期に使われていた部品です。外観から観察しただけですが、たぶん、11万代頃の個体であろうと推測します。トップカバーの付替機ということですね。素性をご承知であれば何の問題もありませんけど・・
PEN-Fの作業に掛かる前に形にしてしまいます。組立てた機械は中々良好です。自動巻きの錘の動きが気に入らなかったので、再度分解して指定グリスを塗布しましたら、ぐっと軽く回転するようになりました。文字盤はこの機械にセットされていたままの珍しいグレー色のものです。ダメージは無くきれいですので使います。文字盤の埃を取り除いて針をセットします。ケースは当然キズが多いので、研磨をして仕上げるのですが、とりあえず、先に研磨しておいた個体のケースを借ります。ヤドカリみたいです。画像上の機械は、未O/Hですが、精度は良好です。しかし、自動巻き錘のベアリングにガタが有って、香箱車と接触するのと、文字盤の腐食が進んでいるので処遇はまた考えましょう。
こんな感じです。25JEWELSの下のマークは諏訪精工舎のマークです。(あぁ、諏訪製だったんだぁ)似ていますがもう一つのマークがあって亀戸(第二精工舎)でも別シリーズの時計を製造していて、このマークでどちらの工場製かが分かるのです。私の好きな、大きくラウンドしたラグと4時の位置にリューズがあるデザインが当時の私には新鮮で素晴らしいデザインと感じました。今見てもその印象は変わりませんね。これで、紺色の文字盤だったらそのまんまなんですが、グレーは老眼の目には針がどこにあるのか見つかりません。若い頃だったら良かったのでしょうけど・・さて、セイコー5のオリジナルバンドはステンレス製ですが、当時の中古バンドは磨耗で伸びているので付けたくありませんね。まぁ、完成した時計のバンド選びも楽しみの一つなんですね。現在でも、キャリバーの形式は変わりますが、セイコー5は製造されており、非常に安価に手に入れることが出来ます。当時は無かった、裏蓋がスケルトンで内部が見えるおまけ付き。これは、中国製のニセモノ(内部はクオーツ)が氾濫したため、本物の機械式であるという識別のために採用されたとか。とにかく気軽にオートマチックが味わえる優れものには違いありません。みなさんも入手してみては如何ですか?
でね。何で作業が進まないかというと、ばっちいのですよね。私汚いの嫌いなの。過去に修理というか、分解の手は入っているわけですが、全く部品を洗浄しようという気がないのね。古い油汚れとホコリが積もって、シボ革は手油なわけですよ。
分解前に推測したとおり、初期型の個体でしたね。巻き上げレバーのクラッチのスプリングですが、画像のようにりん青銅の板バネを使っていたのは極初期だけです。その後は、一般的なコイルスプリングになります。米谷さんの設計は、変なところで凝っているんですよね。ホンダのS600なんかと似たところがあります。シンクロのリード線は切断されたままですね。さて、それではお洗濯からしましょうね。
前板関係も汚れがひどく、拭き上げではきれいにならないと判断して、すべて分解して洗浄してあります。
また、ちょっと寄り道します。緊急で今朝届いたこのPEN-FT #1757XXですが、リターンミラーがUPした状態でフリーズとのことです。緊急脱出を試みましたがうんともすんとも動きません。原因が特定できなければ、お見積りも出来ませんので分解します。内部は、修理を受けていますね。
底蓋を開けます。まず気になったのは↓のバネカケですが、これはメディカル用が付いていますね。なんで? ネジロックは外された形跡は無いようですので、ミラーユニットごとメディカル機から移植されたということでしょう。で、ピンセット先の金属片が出て来ました。突然故障の場合、底の部分を点検すると、このような金属片があることがあります。これは、どこかの部品が金属疲労で折れたということです。それでフリーズしているのでしょう。
シャッターユニットを点検します。すると・・あっこれだ。ハンマーのロック爪が折れていますね。これでは動きません。しかし、この部分の板厚は厚いので、折れるというケースは殆どないのです。点検をすると、メインのスプリングが後期の自由長の長いタイプになっています。この頃はこの部品は使っていません。また、シャッター羽根の自由位置が変なところにあります。無理にテンションを上げようとした可能性があります。ロック爪もその衝撃で折れたという仮説も成り立ちます。まぁ、スタンダードなセッティングを崩された個体と判断しますので、手を焼くかも知れません。
シャッターユニットは古いグリスでベトベトの状態。ブレーキは分解あとがありますが、分離してみるとOリングが削られています。Oリングが硬化するとブレーキが固着して巻上げに支障を来すようになりますが、それを改善?するために、Oリングを取り去るか削るのがどうも定番のようですね。
超音波洗浄をしましたのでピカピカですね。大量の磨耗による金属粉が出ましたよ。金属粉は磨耗を早めます。みなさんの愛機も同様な状態でしょうね。
ブレーキのOリングは交換してあります。シャッター羽根を取り付けてユニットは完成です。
組立はほぼ終了しています。全反射ミラーは再使用としています。シンクロのリード線ですが、本体側(オレンジ)とカバー側に残っていたターミナル接片のリード線は青ですね。形跡は残ってしまうのですねぇ。両方ともニッパで切断していますので、確信的な作業です。で、私は白のリード線で再生しておきました。オーナーさんからは特に問題ない個体とのことでしたので、ストロボは使用されていなかったのですね。
フレネルレンズ上下のダストカバーを接着して、欠品していたレンズサイドカバーを追加で接着しておきます。
これで完成とします。ずいぶん時間が掛かりましたよね。Fの場合は、過去の分解や部品の付け替えなどで、面倒なことになっている個体が多いのです。しかし、シャッターユニットほかの超音波洗浄とブレーキの交換で、滑らかな(Fとしては最高の部類だと思います)巻き上げ感と高速シャッターでもショックが穏やかな作動となっています。外観からは、ネジ付きのリターンミラーで、見る方が見ればオリジナル性には疑問を生ずる個体ですが、まっ、良いでしょう。上下カバーの留めビスも+に変えられていますが、この頃のオリジナルはスリ割りビスです。ご希望なら11万代のカバーも在庫はありますけどね。
ペン・ペンFともに、とても丁寧にご整備いただき、本当にありがとうございます。
ペンF、恥ずかしながら、型番による特徴の違いは全く存じておりませんでした。購入前には予備知識が必要ですね・・・。
11万代のカバー在庫がとても気になりますが・・・・、今回は今のトップカバーで使っていきたいと思います。
分解するペンF系には、カバーを交換された個体と遭遇することがありますが、たぶん、カバーに打痕やキズがあって、美的にオーナーさんが交換したものや、業者さんが、商品の価値を高めるために交換されたケースなどが考えられますね。行為を非難することは容易ですが、へこんだ車は板金に出す心理も理解出来ますし、それによって新たにその個体が輝きを取り戻すならそれも良しとも思います。しかし、シリアル№を無くした個体は、戸籍がないのと一緒ですから、カメラのことを考えて、多少のキズなどでは交換しない優しさも欲しいものです。すでに正確なシリアル№の特定は不可能ですので、せめて大よその№と製造年は現オーナーさんにお知らせしておきたいと思います。ペンF系のシリアル№は製造年月と正数順には並んではいませんが、私の試料から推測すると#115000~#120000付近の個体で、1964-3月の製造と思われます。
トミーさんが、以前に四角い時計にご関心があると伺い、
チャレンジされるかなと思いお知らせしました。
「2559-3030」のご連絡ありがとうございます。
お調べしましたら、この時計は、セイコーのクイーンセイコー(ハイビート)ですね。1969年発売の女性用の8振動と高振動の高級機ですから、紳士用のグランドセイコーやキングセイコーに対応したモデルです。キャリバーは2559A(24石)で、巻真の部品番号は351251になります。リューズはケースの種類によっても種類がありそうですが、外装部品になりますから、外装カタログを見ませんと分かりません。「3030」がケースの番号になります。部品商社に問い合わせて見れば、そのものズバリが、代用品は見つかるのではないかと思います。機械としては、普通の設計ですからO/Hは問題ないと思います。
小ぶりですので、婦人用はうなずけました。
ステンレスのメッシュのバンドが着いています。
機会を見て送らせていただきます。