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今日の筆洗

2023年08月18日 | Weblog

 「空白の一日」という言葉は一九七八年のドラフト会議の前日、江川卓選手が巨人と入団契約を結び、世を驚かせた際に流行した▼前年のクラウンライター(現西武)の指名は拒否。野球協約は、ドラフト指名による交渉権は翌年の会議の前々日になくなると定めており、前日は自由に契約できると巨人側は考えた▼規則の不備をつく禁じ手と世間は怒り、抗議電話で江川さんの母は寝込んだ。先の契約は認められず、七八年のドラフトで指名した阪神と契約し即、巨人にトレードされる形で収束したのは周知の通り▼作家の林真理子さんが理事長の日本大学を巡り「空白の十二日間」という言葉が世を賑(にぎ)わせている。アメリカンフットボール部の薬物事件。関係者が寮で大麻のような不審物を発見したが、警察への通報は十二日後になった。日大は否定するが、隠蔽(いんぺい)を疑う向きもある▼アメフト部の悪質タックル問題や元理事長の脱税事件が続いた日大の理事長に「母校を何とかしたい」と就いた林さん。今回の事件の会見で、スポーツ部門に対し「遠慮があった」と語った。改革は容易でないということか▼江川さんは「空白の一日」に巨人と契約できると周囲に聞かされ驚いたが、決断したのは自分と自伝で強調する。「自分で選んだ道だから、これは逃げも隠れもできない」と批判に耐えたという。林さんも似た覚悟だろうか。


今日の筆洗

2023年08月17日 | Weblog

 旧暦の七夕(二十二日)が近く、夏の星空が美しい。南東の空にベガ(織り姫星)とアルタイル(ひこ星)を見つけたくなる。お盆休みのふるさとで子どものころと同じ星空を楽しんだという方もいらっしゃるか▼<真砂(まさご)なす数なき星の其(その)中に吾(われ)に向ひて光る星あり>正岡子規。不思議な宇宙の光の話である。米国のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が「はてなマーク(?)」のように見える不思議な光をとらえたそうだ▼なるほど写真を見れば、はっきりと「?」である。米SF作家、フレドリック・ブラウンの短編を思い出す。星々が移動し、光で文字を作ろうとする怪現象が起きる。人々はうろたえるが、実は新手の広告サイン-という話だった▼<吾に向ひて光る>宇宙からの「?」にこちらも「?」となるが、どうやら、地球から数十億光年も離れた場所で、銀河同士が衝突し、こんな形に見えているらしい▼月にウサギの餅つきが見え、岩が人の顔のように思える現象を「パレイドリア効果」と呼ぶそうだ。人は無秩序な形にも見慣れたものや意味を見いだそうとするもので、宇宙の「?」もこれと同じなのだろう▼そう分かっていながら「?」の意味を考え込む。宇宙の謎を解けという出題の「?」か。争い絶えず、核兵器をいっこうに手放そうとしない人類に対しての辛らつな「?」にも見えた方がよいかもしれない。


今日の筆洗

2023年08月16日 | Weblog
終戦後、初めて封切られた映画は五所平之助監督の『伊豆の娘たち』で公開日は一九四五年八月三十日である。挿入歌「リンゴの唄」で知られる『そよかぜ』よりも二カ月ほど早い。終戦から半月で上映にこぎ着けるとはどんな早業だったか▼食堂を営む父親と二人の娘。これに長女が思いを寄せる青年技師の下宿人が織りなすホームドラマで佐分利信さんが若い。登場人物が国民服を着てはいるが、戦争のにおいがまったくしない▼撮影助手として加わったカメラマンの川又昂(たかし)さんによると大半は終戦前の撮影だそうだ。製作が決まったのが五月。本来は東京の下町の話だったが、東京大空襲で焼け野原となったため、やむなく伊豆に舞台を移した▼空襲の激しい期間で苦労も多かったそうだ。ネガを東海道線で運ぶ途中、空襲に遭い、川又さんはトンネルの中で大切なネガを抱えて寝ないで一晩明かしたという▼戦時中の撮影にも同作には戦意高揚の場面はない。若い男女が仲良く歩く場面もある。「どうしてこんな平和なドラマが戦時下に製作できたのだろう」と川又さんが書いているが、想像だが、公開までの短期間で「戦後」向けに手直ししたのかもしれない▼昨日が終戦記念日なら本日は終戦の「次の日」記念日か。七十八年前、大混乱の中にも未来に向けた、たくましい動きがあったことに、今さらながらホッともする。
 
 

 


今日の筆洗

2023年08月15日 | Weblog
英国で二〇〇八年、約千三百人が参加した「伝言ゲーム」が行われたそうだ。念のために説明すると、決まった文句を参加者が隣の人に小声で順に伝えていく遊びで、大抵はうまく伝わらず、最初の言葉は最後にはねじ曲がる▼二時間も続いた、「伝言ゲーム」の出発の言葉は「大きな変化を起こす」だったそうだ。これが途中で、「私たちは記録を破る」となり、最後は「haaaaa」という笑い声のような言葉になった▼終戦の日である。七十八年前の終戦の日から、日本はこの「伝言ゲーム」を懸命に続けているのだろう。戦争の恐怖と非情さ。非人間的な暮らし。それが終わり、人々が心から叫んだ最初の言葉は「二度と戦争はごめんだ」だったはずだ。その言葉を次の世代に丁寧に伝え続けてきた▼伝言は平和国家を築く「まじない言葉」でもあろう。他国との争いを厳に慎みたいと思い、戦争の気配から身を遠ざける。平和の効力があったと信じる▼言葉は今も正確に伝えられているか。心配なのはこれからだろう。戦後生まれが八割を超え、あの言葉を最初に伝えた世代がいなくなっていく▼ゲームのコツはよく聞くことだそうだ。戦争のむごさを伝える言葉を正確に聞き、次の世代にそのまま伝えたい。伝言を正確に受け取りながら、どういうわけか「避けられぬ戦争もある」とねじ曲げてささやく人もいるらしい。
 
 

 


今日の筆洗

2023年08月14日 | Weblog
ハワイアンの代表的な曲「アロハオエ」は、別れの歌だそうだ。曲名にアロハというあいさつの言葉があるのと、心地良いメロディーに、島を訪れる人を歓迎する歌だろうと想像していたが、惜別の歌だったか▼少々、混乱しそうだが、ハワイ語の「アロハ」には「こんにちは」と「さようなら」の両方の意味がある。歌のアロハは「さようなら」の方である。ハワイ語の辞書によると、これ以外にもいろいろな意味を含む言葉で愛情や優しい気持ちを表すのも「アロハ」なら尊敬や感謝の言葉も「アロハ」である▼「悲しみ」「同情」の意味もあるそうなので、やはり「アロハ」と声を掛ける。日本人にもなじみ深い米ハワイ州マウイ島の山火事である。バイデン大統領はハワイ州に大規模災害宣言を発出した。大勢の犠牲者が出ている▼異常な乾燥状態の中で山火事が発生し、その火をハリケーンの強風が広げてしまった。かつてのハワイ王国の首都があったラハイナの中心部は壊滅的と伝わる▼青い空と白い雲、緑の木々。以前の美しく穏やかな街を、山火事が焼け焦げた黒と灰色のがれきの街に変えてしまったかのようである。現地映像を見るのがつらくなる▼なお連絡が取れない人も多いという。心配である。観光産業にも大打撃で復興には時間がかかるだろう。「アロハ」と祈るしかないのか。「希望」という意味もある。
 
 

 


今日の筆洗

2023年08月12日 | Weblog
敵艦に体当たりを図る特攻隊員は、本当に志願に基づき選ばれたのか▼近著に『「特攻」のメカニズム』がある社の同僚加藤拓記者の取材に、送り出した側の元上官のほとんどは「志願」と声を揃(そろ)えたが、操縦席に座った元隊員には「命令」と受け止める者もいたという。「命をお国にささげる時が来た。志願する者は署名して提出せよ」と訓示され、一人が「志願しよう」と言いだして全員が倣ったが、それは志願と呼べるのか-。傍(はた)からは怪しく見える「志願制」は組織上層部の責任回避が目的だったらしい▼今回、上層部の関与はなかったのか。コロナ関連のコールセンター事業を受託した近畿日本ツーリストが人件費を水増し請求。元支店長ら四人が逮捕された。社長は会見で組織ぐるみを否定した▼過大請求は静岡支店などが舞台。最大約五十自治体の計九億円に上る。弁護士らの調査委員会は、組織全体の利益追求偏重や法令順守軽視を指摘。支社幹部から管内各支店長へのメールには「利益を死守するように」とあったという▼一線を越えよとの命令はなくても、無慈悲な圧力で人に誤った選択をさせる-。特攻とも重なる、日本の組織にありがちな悪弊と思える▼先の著書は「終戦を境に、日本の社会構造は過去の負の遺産を断ち切ったわけではない」と語る。戦争を考えることは今の私たちを考えることなのだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年08月11日 | Weblog

「ふがいない」「ミスミス完敗」-。新聞の見出しはなかなかに手厳しい。政治の話ではなくラグビー日本代表である。九月のラグビーワールドカップ開幕まで一カ月を切ったが、日本代表の調子がなかなか上がってこない▼W杯までの準備試合と位置付けたトンガ、フィジー戦などの最近の計五試合で日本代表は一勝四敗。厳しい論調もやむを得ないところか。不用意なミスも目立つ▼ファンの態度も昔に比べ、随分と変わった気もする。観戦した、ある試合。苦戦する日本代表にも温かい声援を送るファンが大半だが、中にはミスを大声でなじる方もいらっしゃる。ファンの目が厳しくなっている▼変化の裏にはラグビー人気の定着や日本代表への期待が高くなっていることもあるのだろう▼前回大会でベスト8。日本国内リーグには各国有力選手がひしめく。国際統括団体の「ワールドラグビー」は日本を最上位格の「ハイパフォーマンス・ユニオン」に編入している。こうした状況を見て、日本ラグビーの成長を信じたファンにとって「一勝四敗」にやきもきしているのであろう▼無論、厳しい声に選手が発奮することもあろうが、日本ラグビーはなお成長過程にある。ゴールは遠く、長い目で見守ることにする。このW杯にしてもまだ時間がある。今の不調もやがてくる奇跡の物語のほんの序章に過ぎないのかもしれないし。


今日の筆洗

2023年08月10日 | Weblog

大相撲の力士は新幹線の座席の背もたれを倒さないそうだ。力士たちは背もたれを倒せば、後ろの人がひどく窮屈になることをよく知っており、倒さないのが暗黙のルールになっていると行司の木村銀治郎さんが『大相撲と鉄道』に書いていた▼三つ並んだ席で嫌われるのは中央の席だそうだ。巨体に挟まれる姿を想像すれば理由は分かる。一方で、通路側の席にも問題がある。脚が通路にはみ出しやすく、車内販売のワゴンが当たることがあるそうだ。よく眠っていた力士はワゴンのゴツンで目をさますことになる▼お相撲さんの安眠は守られるだろうが、新幹線開業以来の長い歴史を思えばしんみりする話である。JR東海は東海道新幹線の「のぞみ」「ひかり」でドリンクなどを提供する車内ワゴン販売を十月末で終了するそうだ▼理由は利用者減や人手不足と聞くが、なるほど最近は飲み物やお菓子をあらかじめ用意している方が多く、ワゴンに声を掛ける方も少ない▼時代の流れとはいえ、利用者には思い出も残るワゴンである。うまく運んだ商談のごほうびにワゴンの缶ビールで祝杯を挙げた方や、カチンカチンに凍ったアイスに大笑いした家族旅行を思い出す人もいるだろう▼新幹線から冷水器、食堂車が消え、今度は車内販売のワゴン車-。新幹線と一つ違いの昭和生まれは大して利用もしなかったくせに妙に寂しい。


今日の筆洗

2023年08月09日 | Weblog
ミョウバンと酢を一定の割合で混ぜてインクを作り、ゆで卵の殻にメッセージを書く。インクは多孔質の殻に染み込み、固ゆでになった卵白の表面にメッセージを残せるそうだ▼卵を受け取った人物が殻をむけば、その内容が読める。十六世紀のイタリアの科学者ジョバンニ・ポルタが考えた秘密のメッセージを伝える方法だという。『暗号解読』(サイモン・シン、新潮文庫)に教わった▼ただ、これでは敵が秘密を入手するのはたやすかろう。受取人から卵を奪いさえすればよいのである。ワシントン・ポストの報道が事実ならうかつな人物が卵を盗まれそうになったということか。二〇二〇年、中国軍のハッカーが日本の防衛省のシステムに侵入したという▼「近年でもっとも深刻なハッキング」と伝えられる。浜田防衛相は防衛省から情報が漏れた事実は確認できないとする一方、侵入については否定も肯定もしていない。想像するしかないが、機密がかなりの危険にさらされた可能性がある▼日本と防衛情報を一部共有する米国は気が気でなかろう。日本が侵入を許せば、米国の「卵」まで奪われてしまう▼「秘密は刃物だから、子どもと愚か者には漏らしてはならない」。十七世紀の桂冠(けいかん)詩人、ジョン・ドライデンの喜劇に出てくる言葉だそうだ。対策を急がねばなるまい。米国は今、日本を子どもか愚か者と疑っている。
 
 

 


今日の筆洗

2023年08月08日 | Weblog

米大リーグのシカゴ・カブスの本拠地リグリー・フィールドは米国で二番目に古い大リーグの球場で、外野フェンス一面を覆った美しい緑のアイビーが名物である▼有名なのは一九八八年まで夜間試合を行っていなかったことだ。照明のまぶしさや騒音が住民の迷惑になると夜間試合を見合わせていた。かつてのカブスオーナー、P・K・リグリーさんの名言は米国野球ファンにはおなじみだろう。「野球はお日さまの下で行うべきだ」▼野球に関しては小欄は極めて保守的で申告敬遠やタイブレークにも不満がある。「野球はお日さまの下で」と思わないでもないが、酷暑の中の甲子園を見れば、考えを改めるしかなさそうである▼容赦なく照り付ける日差しに、選手の体感気温はおそらく四〇度を超えているはずだ。過酷な状況にも懸命にボールを追う若者の姿は高校野球の魅力と認める一方で、やはり、この暑さの中での野球はどう見ても危険だろう。悔しいが、日本の夏はかつての夏ではない▼試合中に選手の体を冷やす十分間のクーリングタイムが今大会から導入されたのは喜ばしいが、どこまで効果があるか。中長期的には夜間試合の導入も含めた見直しが必要だろう▼<雲はわき 光あふれて>は「栄冠は君に輝く」。もちろん昼間の試合をイメージしているが、夜間試合でも栄冠が球児に輝くことに変わりはあるまい。