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今日の筆洗

2023年08月30日 | Weblog

酒びたりで商いを怠ける亭主が浜で財布を拾ってくる。ご存じ、落語の「芝浜」である。女房は考えた。この金があると亭主はもっとだめになる。そこで亭主を酔わせ、うそをつく。「財布なんかないよ。夢でも見たんだろ」▼この人も大切な父親のため必死にうそをついた。昭和の名人、古今亭志ん生さんの長女、美濃部美津子さんが亡くなった。九十九歳。志ん生さんを支え、金原亭馬生さん、古今亭志ん朝さんの二人の弟をやはり名人上手に育てた方といってもよいだろう▼美津子さんの「芝浜」はこんな筋だ。大病から回復したばかりなのに志ん生さん、家族がどんなにとめてもお酒を飲みたがる。美津子さんは水でかなり薄めて出していたそうだ▼「近頃の酒は水っぽくなったなあ」。首をひねる父親に「時代が悪くなったのかねえ」「一級酒に変えたから」と、ごまかし続けた。志ん生さんは亡くなるまで約十年、日本酒の「水割り」だった▼ラジオ局にお勤めの時代は、時間内に収まらぬ父親の噺(はなし)を放送用に自ら編集して短くしていた。晩年、噺を忘れてしまう父親のため、高座の後ろの屛風(びょうぶ)に隠れ、「違うよ」とささやく日もあった▼「志ん生の名は志ん朝に継がせたい」。父親との約束は果たせなかった。少し心残りかもしれないが、志ん生さんも笑っているだろう。家族水入らずのお酒はもちろん、水っぽくない。