東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2023年08月24日 | Weblog
作家で俳人の久保田万太郎が母校、慶応野球部の応援歌の作詞を頼まれたことがある。井伏鱒二が書いている。昭和の初めの話だろう▼久保田に野球の歌を書けるだろうかと心配する声が仲間内にあり、野球の試合を久保田に一度見せることにした。試合後、一緒に観戦した作家の青柳瑞穂が井伏にこう言った。「久保田さんは負けたときの歌なら書けるかもしれない。僕にはそれが痛いほどわかる」▼久保田も青柳も勝者より敗者に心を寄せる人だったのだろう。久保田が応援歌を作詞することはなかったとみえる▼敗れた若者に久保田ならどんな詞を書くのだろうと試合前につい想像したが、甲子園の慶応(神奈川)にそんな歌は無用だったようだ。「エンジョイベースボール」を掲げ、のびのびしたプレーで決勝に駒を進めた慶応。仙台育英(宮城)に勝利し優勝旗を手にした。百七年ぶりの「王者」である▼それにしても、よく打つ。投手陣も踏ん張る。練習は短時間、選手の自主性を重んじた考える野球は昭和の根性野球世代にはどうも得心しにくいところもあるが、優勝でその道の正しさを立派に証明した▼何より選手がうれしそうにプレーしている。楽しい。野球が大好き。明るい心持ちが思わぬ力を引き出すのか。<勝利に進む我が力 常に新し>。応援歌「若き血」だが、高校野球の<新し>を教わったようである。