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今日の筆洗

2023年08月19日 | Weblog

 山口県上関町は天然の良港に恵まれ、瀬戸内の海上の要衝としてかつて栄えた。付近は潮の流れが速く、航行に好都合な潮流を待つ「潮待ち」、順風を待つ「風待ち」の船で賑(にぎ)わった▼船にエンジンなどない時代。食料などを調達できる中継港は重宝された。北前船や朝鮮通信使の船も寄港。豊臣秀吉、シーボルト、吉田松陰、坂本龍馬といった人物も立ち寄ったと伝わる。蒸気機関で動く船の時代になり、潮や風といった自然に抗する力を得ると港の地位は下がっていった▼これからは核エネルギーの利用を支える町として生きていくのか。原発の使用済み核燃料を一時保管する中間貯蔵施設建設に向けた調査について上関町長が容認する方針を昨日、議会で表明。電力会社にも伝えた▼かねて原発建設の話があるが、東京電力福島第一原発事故の影響などで計画は停滞。代替の地域振興策を町が電力会社に求め、示されたのがこの施設という▼実際に建設に至るかは分からぬが、調査段階で国の交付金が入る。町長は人口減などに触れ「住民支援策も近い将来できなくなる」と語った。疲弊が進む地方で、風向きの変化を漫然と待っていられないということか▼議会での表明前、役場に着いた町長の車を反対派住民が取り囲み、怒号が飛んでいた。上関町という同じ船に乗る者同士の対立。祝福には躊躇(ちゅうちょ)を覚える船出の決断である。