東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2021年08月21日 | Weblog

日体大体操部時代は、仲間で後の五輪金メダリスト、「山下跳び」の山下治広さんより、種目によっては上とも言われたらしい。けががなければ、そちらで名を残していたはずだ。妥協のないアクションシーンにその運動能力を生かし、若くして二枚目の俳優として成功する千葉真一さんである▼幾度か枠の向こうに跳んだ人でもあるだろう。『仁義なき戦い』が大ヒットした後、シリーズ二作目の主役に抜てきされながら、撮影直前に凶暴、凶悪な人物の役に代われと告げられる▼夜を徹して抵抗し、悩み、最後に全力で演じる道を選んだ。強烈な大友勝利の役は、シリーズを通じて、主人公をしのぐほどの強烈な印象を残す。大作『日本暗殺秘録』では、大物政治家を暗殺した実在の人物小沼正を演じた。中島貞夫監督の家に泊まり込み、がらにない役のために、教えを求めた▼恩赦で出てきた小沼には「本当にあの通りの気持ちでした」と言われたそうだ。怒り、内面の葛藤、情念。「アクション俳優」という枠に収まらない演技で印象深い場面を残し、活躍してきた千葉さんが亡くなった。新型コロナウイルスによる肺炎である。八十二歳▼芸名「JJサニー千葉」のJJは、ジャスティス(正義)とジャパンという。大きなものを背負い、世界からも認められた人だ▼映画と向き合ったまま死んでいきたい。著書にあった。


今日の筆洗

2021年08月20日 | Weblog
世の中の不幸は順序立ってやってくるわけではない。徒然草にある。<生老病死の移り来たる事又(また)これに過ぎたり…死期(しご)は序(ついで)をまたず>。生老病死がめぐってくるのは四季の変化より早く、死は順序を待たないと。現代の人にも響く感じ方かもしれない▼災害からの復興途上にあり、わずかひと月あまり前には、大統領が暗殺され、政情不安が高まったばかりの島国。カリブ海のハイチが先週また大きな地震に見舞われた。疲れ切ったこの国に、なぜ不幸が次々めぐってくるのか。そんな声が聞こえそうな惨状が伝えられている▼コロナ禍とアフガニスタンの混乱に世界の多くの関心が向いている中、死者は二千人を超えた。崩れた建物の下に多くの人がいると伝えられて、長い時間が過ぎる。被害はさらに大きくなりそうである▼二〇一〇年の地震では三十一万人以上が亡くなったとされ、復興はまだ遠いという。現在の政情不安が招いた治安の悪化は、地震の救援の脅威になるともいわれる▼さらに不幸な事態にもなった。新たな災害、熱帯暴風雨までも到来している。水害が起きて、不明者の捜索や家を失った人の生活にも影響が出た▼父がハイチ出身のテニス選手大坂なおみさんは、賞金を救済に寄付すると表明している。日本からの緊急援助も始まったそうだ。同じく、順序を待たずに災害がやってくる国からの支援になる。

 


今日の筆洗

2021年08月19日 | Weblog
人は無意識に他人との間に一定の距離を取ろうとするものらしい。心理学者多湖輝さんの著書に教わった。距離が取れない満員電車の中ではどうするか。他人を意識の外にやろうと視線をそらし、上に向けるのだという。その先にあるのが中づり広告である。人の心理と都市生活の産物のようだ▼日本の通勤電車の混み具合が海の向こうにも知られた高度成長期、広告業者の国際的な大会で、東京には、立ったまま身動きできない人のために考案された広告が存在していると話題にもなったそうだ▼時代を背景に、多くの人の視線の先で、表現や文字の配置に、職人的ともいえる磨きがかけられてきたのが、雑誌の広告であろうか。有力週刊誌の「週刊文春」と「週刊新潮」がともに電車の中づり広告をやめると報じられた▼時代の変化だろう。電車内に立つ多くの人の視線の先は、いまやスマートフォンの画面である。電車内の広告の重みが変わったらしい。雑誌の減少もあろうが、特に首都圏以外では、雑誌の中づり広告を見る機会が少なくなっていたことにも気付かされる▼広告が下がる満員電車を降り、すぐに売店に向かったことは何度かある。情報密度の濃い両誌の広告から硬軟の時の話題を仕入れて、だれかと語り合ったことは多数▼両誌とも健在だが、なじんでいたものがなくなってしまうようで少々寂しい気にもなる。

 


今日の筆洗

2021年08月18日 | Weblog
天候不良などで審判が試合を打ち切る「コールドゲーム」。コールドとは「CALLED」であって「審判に宣告された」という意味だが、雨にぬれた選手を見れば「冷たい」の「COLD」の方が浮かんでしまう。そんな昨日の高校野球の試合だった▼優勝候補同士の戦いとなった、大阪桐蔭対東海大菅生。強い雨の影響によって八回、東海大菅生の攻撃途中で打ち切りとなり、大阪桐蔭が勝利した▼たたきつけるような雨にグラウンドはぬかるみ、打球が弾まない。投手の滑り止めはまるで役に立たず、制球さえ定まらぬ▼泥まみれになりながら、打球に飛びつく野手。悪天候の中、勝利を信じ、奮闘する選手の姿に胸を熱くした方もいるだろう。東海大菅生はもちろんリードしていた大阪桐蔭の選手や打ち切りを宣言せざるを得なかった審判団も試合を続けたかったはずだ。本物の「晴れの舞台」を用意してあげたかった▼試合ができた選手はまだ救いがあるか。宮崎商と東北学院。新型コロナウイルスに選手が感染し、出場辞退を決めた。つかんだ夢の切符をこんな形で手放すことになるとは。選手は泣いているだろう▼長引く大雨やコロナ。大きな災いの中にある、この夏の日本である。三十一日が期限だったコロナ対策の緊急事態宣言は九月十二日まで延長となる。事態収束を告げる「コールド」の声はいつ掛かるのか

今日の筆洗

2021年08月17日 | Weblog
戦闘員が大統領府を占拠している写真を見て、思い浮かべるのは城である。普通の城ではない。浜辺にこしらえた砂の城。長い年月をかけ、苦労して造り上げたその砂の城はまたたく間に跡形もなく、大波にさらわれていった▼アフガニスタンの反政府武装勢力タリバン。その大波はついに首都カブールまでのみ込んだ。ガニ大統領は国外に退避し、政権は事実上崩壊した。二〇〇一年の米中枢同時テロ後に成立した民主国家という「砂の城」はあっけなく消えた▼米国が武器を与え、教育したはずの政府軍はいともたやすく、敗走した。タリバンが州都の攻略を始めたのは六日。わずか十日間という信じられないスピードで全土を掌握した▼つい数日前、米軍幹部が首都が陥落するまでは「なお数カ月かかる」と語っていたが、あっという間にタリバンの手に落ちた。いかに米国の見通しが甘かったか▼その城は米国という存在が呪文の役割を果たし、それなりの強固さを保っていたのだろう。米軍の撤退によって呪文を失い、もろい砂の城へとなってしまった。米国の選んだ撤退時期は正しかったのか。今となってはその判断が恨めしい▼心配なのは砂の城の中で暮らしていた人々である。タリバンは「平和的権力の移行」を強調する。その言葉を信じたいが、人権を軽視する勢力である。タリバンという戻ってきた波が恐ろしい。

 


今日の筆洗

2021年08月14日 | Weblog

 二十人ほどの学生アルバイトを雇い、半分に分ける。一方は看守役、もう片方は囚人役。その役になりきってもらい、模擬刑務所の中で生活させる▼映画にもなった米国の有名な心理学実験は一九七一年八月に行われた。「スタンフォード監獄実験」という。どうなったか。ごっこにもかかわらず、看守役は囚人役に次第に支配的になり、精神的虐待や暴力まで使うようになった。実験は中止になった▼人を支配できる役割を与えると残酷な行為も平気になっていく。実験の信ぴょう性には以前から疑問も出ているが、人間にはそんな悲しい側面が確かにあるかもしれない。名古屋市の入管施設に収容されていたスリランカ人女性が病死した問題に考え込む▼女性は診療を求め続けたが、職員は詐病と決めつけた。体調不良で飲み物をこぼした女性に対し、ひどい言葉を使う。問題を伝える記事にやりきれぬ思いとなる▼人権意識も持ち合わせているはずの現代人とその無情な行為がうまく結びつかぬ。不法滞在の外国人を預かる入管という特殊な空間。その中に職員を冷酷にする何かが潜んではいないか▼今後の対策として医療体制の整備を図ると聞く。それだけでは再発防止にはなるまい。問題の背景を探り、職員の徹底的な意識改革を図るのは当然のことで、あんな実験はうそっぱちなのだと証明できる場所へとつくり替えたい。


今日の筆洗

2021年08月13日 | Weblog

「猫のノミ取り」「耳のあか取り」など江戸時代には現在では考えられぬ珍商売がいくつもあったそうだが、これもそうだろう。「作り雨」▼「飴(あめ)」の間違いではなく「雨」。雨を作る。『雨のことば辞典』(講談社学術文庫)にあった。もちろん、今の人工降雨の技術などあるはずもなく、夏の暑い盛りにただ、屋根に上って庭へジョウロで水をまく。客の方は夕立を見た気分になり、いっときの清涼感を味わったそうだ。風情におあしをだしたのだろうが、今ではなかなかやっていけぬ商売である▼「作り雨」が必要かもしれない。帰省や旅行を楽しみにしている方には意地悪く聞こえるだろうが、作り雨で雨、しかも大雨が降っているのだと想像し、やはり、外出は控えるべきなのだろう。このお盆の夏季休暇期間である▼新型コロナウイルスの感染拡大は深刻で東京ではもはや「制御不能の状況」という。その勢いは地方にも向かっている。コロナという目に見えない雨が今、極めて強まっている▼腰の定まらぬ政府のやり方に腹を立て、逆らうように外出をためらわぬ方もいる。五輪が開催できたのだからと気を緩めたくもなる。気持ちは分かるが、この大雨の中、外へ出て行くのは危険と考えたい▼<ままよ、このまま濡(ぬ)れていこ>。江戸端唄「夕立のあまり」にそんな文句があったが、「ままよ」の帰省は勧められぬ。


今日の筆洗

2021年08月12日 | Weblog
映画「キング・コング」(一九三三年)のラストといえば、飛行機からの攻撃によってニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングから落下し、息絶えるコングである▼コングは一目ぼれした女性をさらって逃げていたのだが、よほど大切に思っていたのだろう。飛行機の銃撃から女性を守っているのが分かる。コングの最期が哀れである▼舞台は同じニューヨーク。こちらの転落劇に同情はない。ニューヨーク州のクオモ知事である。十一人の女性からセクシュアルハラスメントの告発を受け、辞任を表明した▼つい最近まで新型コロナ対策での指導力が称賛された人物である。英雄。未来の大統領候補。高い評判は同意のない口づけやみだらな言葉によって一瞬で地に落ちた▼「私は一線を越えていない。だが、引き直された一線の範囲を理解していなかった。世代や文化の変化を知るべきだった」。自分にとって一連の行為は親密さの表現とでも言いたいのか。テレビ演説でこう述べていたが、時代や人の気持ちに敏感であるべき政治家の言い訳にはならない▼ハラスメントの一線がどこにあるのかを絶えず確認する。用心のため、その一線からもう二、三歩下がって歩く。それぐらい注意深ければ、大転落はなかっただろう。日本でいえば、どこかの市長が女性五輪選手のメダルを口に入れるような悲劇も起こるまい。

 


今日の筆洗

2021年08月11日 | Weblog

ギリシャ神話では火を天界から盗んで、人間に授けたのはプロメテウスである▼文明、技術の源ともいえる「火」をくれたばかりではない。プロメテウスはゼウスに命じられ、人間そのものをこしらえた神さまでもある▼イソップにこんな話がある。プロメテウスは人間をつくり終えると二つの袋を首に掛けさせた。一つは他人の欠点を入れる袋。これは体の前に掛けた。もう一つは自分の悪いところを入れる袋でこっちは背中に。だから人は他人の欠点はいやでも目に入るが、自分の問題や悪いところは見えにくくなった▼その報告書は背中にあった大きな袋をぐるりと回し、目の前に突きつけているのだろう。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書である。温暖化の原因を「人間活動の影響であることは疑う余地がない」と断じた。それは間違いなく人間が引き起こしたのだと▼従来の表現から踏み込んでいる。無論、人間社会が排出する温室効果ガスが原因であることは分かっていた。が、その袋が背中にあった人間はどこかでそれを認めたがらず、なにかの拍子に温暖化も解決するのではと思い込もうとしていなかったか。それを「人間のせい」であると断定し、人間が改善するしかないと訴えているのがこの報告書である▼取り組みを一層、加速したい。今、体の前に回った袋から目をそらすまい。


今日の筆洗

2021年08月10日 | Weblog
 劇作家の井上ひさしさんは手書き派だった。読みやすく、親しみやすい万年筆の文字を思い出すファンもいらっしゃるだろう▼手書きにこだわったのはゲーテのある言葉を信じていたからだそうだ。「手が記憶する」。ワープロなどを使った場合、内容を十分に理解しないまま、作業として書いてしまい、結果、内容もまた忘れやすくなるが、これに対し「手書きだと何かが残るのです」▼もう間違えないで。時の首相にそんな心配がいるというのも情けない話ではあるが、昨日の長崎での平和祈念式典での首相のあいさつである。首相は広島での式典のあいさつで「核兵器のない世界の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」など肝心の部分を読み飛ばし、顰蹙(ひんしゅく)を買った▼長崎の式典ではひどい読み間違いはなかったが、二度と同じ失敗をしないためにも「井上式」をお勧めしたい。式典でのあいさつは役人が書いた原稿をそのまま読むのがならいだが、ご自分の手で書いてみることだ。手が記憶し、少なくとも読み飛ばしには気がつく。なによりも例年の事務的なあいさつに比べれば、いくばくか、心もこもるだろう▼時の首相が原爆忌のあいさつだけは自分で練った言葉で語る。自分の言葉で核の恐ろしさを訴える。被爆国の首相としてそれは意味のある仕事になる▼来年はぜひ。来年、その方が読むという保証はないが。