東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2021年08月03日 | Weblog
将棋の内藤国雄さんが、厳しい勝負の世界に飛び込んだばかりの十代のころを随筆に書き記している。家に帰ると、母はなぜか一目で勝ち負けを察した。「負けたかてかまへん、相手の人が喜んでくれてはる」。負けたときにはそう声をかけられたという。自分に勝った少年が家で母と喜ぶ様子を思い浮かべて平常心に戻れたそうだ▼「喜んでくれてはる」ライバルの姿は、時に勝負の世界でのなぐさめかもしれない。内藤さんの母上の言葉を思い出しながら、東京五輪の柔道女子での小国の快挙を見た。二〇〇八年に独立を宣言したコソボの二選手による金メダルである▼悲惨な紛争の後、国際舞台に復帰して間がない。十人ほどの選手団で来ているそうだ。国は大喜びという▼コソボ紛争で破壊された小さな街につくられた道場が始まりらしい。指導者のクカ氏は旧ユーゴスラビア時代、バルセロナ五輪で活躍が有力視されていた選手だった。欧州メディアによれば、政権に反発し代表を外れている▼当初は屋根が壊れていたような粗末な道場で、紛争に苦しめられた近所の子どもたちを熱心に育てた。五輪初参加だったリオデジャネイロ大会の一人とあわせて道場から実に金メダリスト三人を出したことになる▼日本選手の金が阻まれた。残念だが、紛争で苦しんできた相手さんの国の喜びを思い浮かべ、拍手を送りたくなる。