東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2021年08月10日 | Weblog
 劇作家の井上ひさしさんは手書き派だった。読みやすく、親しみやすい万年筆の文字を思い出すファンもいらっしゃるだろう▼手書きにこだわったのはゲーテのある言葉を信じていたからだそうだ。「手が記憶する」。ワープロなどを使った場合、内容を十分に理解しないまま、作業として書いてしまい、結果、内容もまた忘れやすくなるが、これに対し「手書きだと何かが残るのです」▼もう間違えないで。時の首相にそんな心配がいるというのも情けない話ではあるが、昨日の長崎での平和祈念式典での首相のあいさつである。首相は広島での式典のあいさつで「核兵器のない世界の実現に向けた努力を着実に積み重ねていく」など肝心の部分を読み飛ばし、顰蹙(ひんしゅく)を買った▼長崎の式典ではひどい読み間違いはなかったが、二度と同じ失敗をしないためにも「井上式」をお勧めしたい。式典でのあいさつは役人が書いた原稿をそのまま読むのがならいだが、ご自分の手で書いてみることだ。手が記憶し、少なくとも読み飛ばしには気がつく。なによりも例年の事務的なあいさつに比べれば、いくばくか、心もこもるだろう▼時の首相が原爆忌のあいさつだけは自分で練った言葉で語る。自分の言葉で核の恐ろしさを訴える。被爆国の首相としてそれは意味のある仕事になる▼来年はぜひ。来年、その方が読むという保証はないが。